バリューは、採用や人事面談での対話軸となる

 3つのバリューは、採用・評価など人事システムとも連動している。採用面接では、3つのバリューを共有し発揮できる人材か否か見極めるため、次のような質問が投げかけられる。「今までどのような難しいチャレンジをしてきましたか」「今まで失敗からどんな学びを得てきましたか」。中途採用ならば「これまでどのような多様な人と共に仕事をしてきましたか」「仕事で利害関係が対立したときに、どのように解決してきましたか」といった質問だ。

 上司部下が向き合う1on1でも対話の軸となるのが、バリューである。「もっとGO BOLDで取り組んでもいいんじゃないか」「いやそれは、TOO BOLD(大胆すぎる)かもしれないね」といったやりとりがなされるという。

 人事評価においては、横軸をバリュー、縦軸をパフォーマンスとして、グレードごとに評価項目が定義されている。これについて、まずは自身が「セルフアセスメント」をして、さらに同僚部下などによる「ピアレビュー」を行い、最後にマネジャーから半年に一度「アセスメント」(評価)がなされる。

 例えば、データ読み込み業務を手掛けるアノテーションチームの村山和也さんは、評価者である東江(あがりえ)夏奈さんから「GO BOLDで高い評価」と告げられた。聴覚障がいのある村山さんは、周囲に障がいを感じさせないほど、他部署と連携しながら前例のない取り組みをうまく進める能力が高いという。メールでのテキスト中心のやりとりでは、村山さんに聴覚障がいがあることに気付かない社員もいるほど、テキストの表現力も高いのだ。

 ちなみに、3つのバリューはどのように決められたのか。創業1年ほどたったころ、当時の役員が合宿をして「わが社にとって大切な価値観とは何だろう」と侃々諤々(かんかんがくがく)議論をして絞り込まれたものとか。ただし、創業当初と2021年で8年目となる今とでは、事業のステージも大きく変わっている。

 たとえば、GO BOLD。創業期には「明日このシステムを変更しよう」と決めれば、即座に大胆に実行に移すことができた。ところが今や1900万ユーザーを抱えるプラットフォーム運営会社に成長、システム変更には数カ月かかることもある。バリューの定義も見直しを続けているという。

 自社の成長ステージに合わせて、また新しい時代の要請を受けて、求められる「共通言語」の定義も少しずつ変化をしていく。見直しと改定を怠らない、そんな不断の取り組みが必要といえそうだ。

メルカリの3つのバリューは人事システムとも連動している(撮影:竹井俊晴)
メルカリの3つのバリューは人事システムとも連動している(撮影:竹井俊晴)

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