違いを乗り越える「コモンインタレスト」を共有する

 人材が多様化すればするほど、求められるのは社内の「共通言語」だ。といっても、英語を社内共通語とする、といった話ではない。個々のメンバーが抱える背景や言葉の違いを乗り越え、皆で価値観を共有するための言葉である。ダイバーシティ経営を目指すのなら、こうした「共通言語」を社内で共有する必要がある。「共通言語」は、従来の日本企業の経営では経営理念や社訓として示され、近年ではパーパス(存在意義)、ミッション(使命)、バリュー(共有する価値観)といった言葉で語られるようになってきた。

 日本マクドナルドの日色社長は、これらを「コモンインタレスト」と呼ぶ。日本の組織の多くは、同質性が高いため「違い」に目が向きがちだ。しかし、多様性に富んだ組織ほど「コモンインタレスト」、すなわち共有する価値、共通の利益に目を向けるという。コモンインタレストを共有することで、組織の求心力が高まりチームのパフォーマンスが向上する。コモンインタレストが、メンバーの対話軸となるのだ。

 日色社長は前職のJ&J時代に、「コモンインタレスト」を共有する大切さを痛感する経験をした。ある手術用機器を米国テキサス州で生産していたが、なかなか品質が向上せず考えあぐねていた。テキサス州から一歩も出たことのない工場の社員たちに、日本で求められる品質をいくら説いても響かなかったのだ。「米国の品質基準は違いますから」「日本はオーバースペックです」といった言葉が返ってくるばかり。

 そこで、日本で働く小児科の心臓血管外科医をテキサス工場に招いて、実際の手術の映像を見せながら手術用機器がいかに使われているかを説明してもらい、手術により子どもたちがいかに健康を取り戻したかを語ってもらった。すると、工員たちは涙ぐみながら聞き入ったという。その後、製品の品質は一気に向上した。人種・国籍が違っても同じ人間、価値観を共有することはできる。J&Jのクレド(わが社の信念)と呼ばれるコモンインタレストに改めて立ち返り、これを腹に落とすことで、組織に変革を起こすことができたのだ。

 いまマクドナルドでは、世界共通のパーパス、ミッション、バリューをコモンインタレストとして掲げる。日本マクドナルドでは、正社員約2000人のみならず、全国約2900店舗で働く約18万人のクルー(パート・アルバイト従業員)の間でも共有している。

 パーパスは「おいしさと笑顔を、地域の皆さまに」、ミッションは「おいしさとFeel-goodなモーメントを、いつでもどこでもすべての人に。」。そのもとで5つのバリューを定めている。お客様第一の「サーブ」、多様性を活かす「インクルージョン」、正しいことを行う「インテグリティ」、地域に貢献する「コミュニティ」、力を合わせて成長する「ファミリー」の5つだ。

 最前線の店舗で働くクルーにこそ、コモンインタレストを共有してもらいたいと、アルバイト初日のオリエンテーションでは、ミッションやバリューを考えてもらう時間をとっているという。パート・アルバイトや正社員といった雇用形態、年代、性別も関係なく、スタッフみなが1つの価値観を共有することから、職場の対話が始まるのだ。



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野村浩子(著) 日本経済新聞出版 1980円(税込み)

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