社長の「体感」を伝えることが、社員の「共感」を呼ぶ

 日本マクドナルドにとって、なぜダイバーシティが必要なのか――明快な語りかけだ。説得力のあるストーリーになっているのは、冒頭で語られる日色社長の店舗での「体感」が、聞き手の「共感」につながるからだろう。心で感じて頭で理解する、そんなダイバーシティのストーリーは、ストンと腹に落ちてくる。

 日色社長の就任時の4カ月に及ぶ店舗研修は、トイレ掃除に始まった。店舗で指導してくれたのは、クルーと呼ばれるパート・アルバイト従業員の主婦や大学生など。子どもほど年齢の離れた学生から「日色さん、接客いいっすね。でも、お辞儀の角度が違うんですよ」と注意されたという。

 クルーの顔ぶれは実に様々だ。人生で辛酸をなめた70代の人もいれば、就職活動に悩む学生アルバイトもいる。日色社長は前職のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)時代、医師や検査技師など国家資格を持つ人ばかりを顧客としてきたが、マクドナルドの店舗に身を置き、その多様性に目を見張る思いがしたという。その実感をもってD&Iの意義を説いたことが、説得力につながったのだろう。

店舗訪問のあとにスタッフから贈られたアルバム(撮影:竹井俊晴)
店舗訪問のあとにスタッフから贈られたアルバム(撮影:竹井俊晴)

 改めてリーダーはいかにⅮ&Iのストーリーを語ればいいのか。

 Ⅾ&Iのストーリーは、自社の置かれた状況を踏まえたもので、経営戦略のなかで意義づけされている必要がある。Ⅾ&Iの一般論であったり、自社の経営状況や現場感覚から乖離(かいり)していたりすると、社員にとっては「自分に関係ない」こととなり頭の上を通りすぎてしまう。わが社オリジナルのⅮ&Iストーリーが必要なのだ。

 優れたストーリーは、受け手の心を動かし、何らかの意識の変化をもたらす。「ものの見方」に変化をもたらすのだ。Ⅾ&Iでもまた、従来の均質な組織ではもはや存続・成長はできないとして社員のものの見方を変える、危機感を醸成するようなストーリーが求められる。

 そしてⅮ&Iを最終的に実践するのは、社員一人ひとりである。そこで変化を担う「自発性」を引き出すことが必要だ。社員が心動かされて、その変化を担おうとしない限り組織は変わらない。改めて、Ⅾ&Iのストーリーの要件を3つにまとめてみよう。

 1 自社の経営戦略に沿ったオリジナルのⅮ&Iストーリーである
 2 社員の「ものの見方」を変え、危機感を醸成する
 3 社員が変化を担う自発性を引き出す

 最初は、社長からの一方的なストーリーの語りとなるかもしれない。しかし、そのストーリーが社員の心を揺さぶれば、その言葉は職場で燎原(りょうげん)の火のように広がっていく。現場での対話も変化する。ただし、経営トップによるただ一回の語りで、魔法のように変化が起きることはあり得ない。リーダーと社員との対話を繰り返す、状況が変われば、その言葉にも少しずつ修正を加える、そしてまた共有する。そうした弛(たゆ)まぬ対話が必要なのだ。

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