LGBTQ当事者から「ほうっておいてほしい」と言われて動揺

 イベント終了後、50代の男性幹部が人事担当者のもとにわざわざ立ち寄り、真剣な表情でこう語った。
「このセミナーに出て、初めてダイバーシティを自分ごととして考えました。今まで、女性や障がいのある社員など、弱い立場にある人のことかと思っていたのです」

そして、こう続けた。
「自分の同僚のなかにLGBTで(自然に振る舞えず)自分を押し殺している人がいることに初めて気づきました。私の不用意な発言で傷つけていたこともあるかもしれない……そう思うと、いたたまれない気持ちになりました」

 LGBTQとアライからなる「ユニティ」にアライとして参加する社員の太田萌さん(27歳)は、CEOの貴田さんがメッセージを発する姿をみて「今まで関心のなかった層に理解を促すきっかけとなる」と感じている。

 太田さんは米国で過ごした大学時代、LGBTQの友人らの「周囲にわかってもらえない」という苦しい胸のうちを聞くうちに、自身も少数派のアジア人として受けていた「偏見・差別」に通じるものがあると感じていた。そこで帰国してEYストラテジー・アンド・コンサルティングに入社するや、早速当事者とアライが共に活動するユニティに参加。社内啓発の担当となり、映画を観て語り合う社内イベントやランチ会を企画したり、LGBTQについての基礎知識を身に付けるeラーニングを制作したり、といった活動をしている。「カジュアルに語り合う場にしたい」という。

 活動をするなかで、意外な反応もあった。当事者から「ほうっておいてほしい」という声もあったと仲間から聞き、ハッとした。「よかれと思ってのことだと思うけど、たいていは迷惑なんだよね」と言われて「(ユニティの活動は)私のエゴなのかも」と逡巡したことも。しかし、あるときユニティのワークショップにオブザーバー参加した貴田さんから「太田さんの参加理由に感動しました」と言われたことで、意を強くした。

 入社以来3年ほど地道に活動をするなかで、周囲から「アライって何?」「LGBTQのユニティって何しているの?」と聞かれることが次第に増えてきた。職場でのプライベートに関する話題のなかで、以前は「彼氏、彼女」また「奥さん、ダンナさん」といった言葉が抵抗なく使われてきたが、今では「パートナー」と呼ぶことが少しずつ浸透してきたと感じている。

 経営トップ自ら、マイノリティ当事者としての「パーソナル・ストーリー」を語り始めたことで、9500人のEYジャパンに、さざ波が起きている。

経営トップ自らがマイノリティ当事者として語り始めている(撮影:竹井俊晴)
経営トップ自らがマイノリティ当事者として語り始めている(撮影:竹井俊晴)

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