「聞く」は人間関係の土台である

井筒:『LISTEN』を読ませていただいて、一番面白かったのは、ネガティブ・ケイパビリティ――不確実性や相いれない考えに耐えられる能力について書かれた章です。この力のある人は、不安なく人の話に耳を傾けることができると書かれていました。それによって情報を蓄え、整理し、何かと何かを結びつけたり、新しいアイデアを生み出したりすることも可能になる。つまり、「聞く」ことは学びであり、成長であり、創意工夫の原動力にもなりうるんですね。問題を察知することも解決法を見つけることも、聞く力あってこそなんだと思いました。

篠田:そうですね。人の話には驚きがあり、その経験には学びがあるという指摘もありました。そもそも聞くということは相手に好奇心を持つことなのだ、と。そして、「話し手への質問は、好奇心からでなくてはいけません」。これには私自身もちょっと反省するところもありまして。

井筒:私も反省材料を見つけましたよ。相手の話に集中できない原因は、自分が話す番になったら何を言おうかと考えているから。私は常に考えていますね(笑)。それから、親密であるために自己満足して、もっとも近い人の気持ちを読み取る能力を過信してしまう「近接コミュニケーションバイアス」。我が家なんか思いっきりこれです。

篠田:それは多くの読者も感じているのでは、と思います。私は『LISTEN』を監訳して、「聞くこと」はビジネススキルとして必要不可欠なものなんだという思いを強くしました。なぜなら、「聞く」は人間関係の土台であるから。上司部下であれ同僚同士であれ、人間関係の土台である以上ビジネススキルとしても大事ですよね。そして、「聞く」は、パフォーマンスの向上に結びつく。これも本のあちこちに書いてありますが、これこそ必須のビジネススキルです。ところがこんなに大事なのに、きちんと「聞く」ことはなかなか難しく、自然には身に付かない。だから、私たちは意識的に積極的に学ばなくてはならない。これが大切なポイントだと思います。

井筒:私はリーダーシップという観点からこの本にアプローチしましたが、例えばZ世代なら、人に聞いてもらえない孤独という切り口でこの本を捉えるかもしれない。管理職経験のあるなしで読み方は変わりそうだし、現場の若い人もまた別の視点で捉えるでしょう。いろいろな人に届いて、いろいろな読み方をされる本なのではないでしょうか。

篠田:そう言っていただけるとうれしいです。

(構成:平林理恵)

幅広い知識が持て、一生の友人をつくる、ただひとつの方法

 「自分の話をしっかり聞いてもらえた」体験を思い出してみてください。
 それはいつでしたか? 聞いてくれた人は誰だったでしょうか? 意外に少ないのではないかと思います。
 他人の話は、「面倒で退屈なもの」です。どうでもいい話をする人や、たくさんしゃべる人など、考えただけでも対応が面倒です。その点、スマホで見られるSNSや記事は、どれだけ時間をかけるか自分で決められるし、面白くないものや嫌なものは、無視や削除ができます。しかし、無視や削除がどれほど大事でしょうか。
 話を聞くということは、自分では考えつかない新しい知識を連れてきます。また、他人の考え方や見方を、丸ごと定着させもします。話をじっくり聞ける人間はもちろん信頼され、友情や愛情など、特別な関係を育みます。一方、「自分の話をしっかり聞いてもらった」ら、自分の中でも思いもよらなかった考えが出てくるかもしれません。どんな会話も、我慢という技術は必要です。しかし、それを知っておくだけで、人生は驚くほど実り豊かになります。

この記事はシリーズ「『LISTEN』から考える新時代の価値」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。