危機のときに生きてくるのは、ピラミッド型ではないフラットな意思疎通

篠田:それは、権限を持って人を動かすのではなく、前編で話された「統御」というもので人を動かすのだ、ということにつながりますね。ところで、昨今、企業の危機管理が重要視されていますが、井筒さんは航空自衛隊のトップとしてどう対応されていますか。
井筒:危機管理のコミュニケーションは、時間が少ない中で正解を追求する、あるいは不正解を取らないことが求められるという点では、非常に難易度が高いと言えます。うまい切り抜け方や決め手となる解決策のパターンがあるわけではなくケース・バイ・ケースなのですが、いずれにしても私がトップとしてやるべきは、説明責任を果たすことに尽きます。なんでこんなことになったのかと部下から情報を集める前に、大臣のところへ行って説明をし、メディアに向かってまた説明をしなくてはなりません。
篠田:調べて経緯を発表するまでにはどうしても時間がかかりますが。
井筒:ええ、よく、どこかの部署に経緯をまとめさせ、報告が上がってくるまで、世間に対しては「調査中です」「分かりません」を繰り返すトップがいらっしゃいますが、それは得策ではありません。例えば事故があった場合、「とにかくすぐに事故現場の写真を見せてくれ。そこから今あるだけの情報を出して私がつなぐから」と言う。今あるリソースでできる限りのことをするのが危機管理コミュニケーションの基本です。経緯をまとめるのもどこかの部署にやらせるのではなく、情報は私のいるここに出してくれ、なんでもいいから教えてくれ、と。
こんなときに必要なのは、世の中の考え方とは逆ですが、ピラミッド型ではないフラットな(立場での)意思疎通なんです。その素地を組織の中に作るためには、日ごろからリーダーが聞く態度を示すことが欠かせないと思います。
篠田:聞く態度を示す、それは、相手が心を開いてくれる聞き方をするということですよね。具体的にどんなふうにされているのですか。
井筒:フラットに「どんどん情報を出してくれ」と言うと、例えば何人もが同じ情報を持ってきます。そのときに「それはさっき聞いた」と事実だけを伝えると、彼ら彼女らは次から「これは新情報ではないのではないか」と考え、萎縮してしまいます。だから、「その情報はほかからもさっき聞いたから、間違いのない情報だね」とポジティブな言葉を付けて返します。そんな5秒のフレーズで情報の流れは全然変わります。
篠田:ピラミッド型の組織、言うなれば昭和的な組織ですが、危機のときはピラミッド型がいい、全組織で立ち向かうべきだと考えるところも多い中、大切な指摘をいただきました。

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