きちんと聞ける組織には、細かい指示は必要ない

篠田:そういうことですか。これがきちっとできるのは、めちゃくちゃ良い組織ですね。でも、ちょっと意外です。自衛隊って一般的には上下関係の厳しい縦社会で、上からの命令は絶対であるという思い込みがありました。ところがそうじゃなくて、下からもアプローチするのですね。

井筒:航空自衛隊だからこそという部分もあるかもしれません。例えば、私は以前宮崎の飛行隊にいたのですが、有明海近くのレーダーが外国機を捕らえてスクランブルをするとき、それをコントロールするのは上司である飛行隊の隊長ではなく、警戒管制部隊なんです。私はそちらからの統制(自分の所属以外の部署からディレクションや情報をもらって動くこと)で飛ぶ。空中に上がったら、警戒管制部隊のコントロールを受けなさい。でも、最終的には機長、あなたの判断ですよ、というわけです。

篠田:驚くほど柔軟ですね。

井筒:はい。これが陸上自衛隊だともっと指揮系統が厳密だし、海上自衛隊は海上自衛隊で船1隻が単体で1つの社会を構成しています。どちらもよそからのコントロールを受けることはあまりありません。

篠田:なるほど。今ビジネスを取り巻く事業環境が急激に変化しています。営業に出たらいちいち持ち帰って上司にお伺いを立てるのではなく、その場で決めるべきものは決めないと乗り遅れてしまう。そんなビジネスの世界にいる皆さんの感覚に、この航空自衛隊の状況はぴったりフィットしそうです。

井筒:スピード感を持って柔軟に対応していくところは、航空自衛隊の特徴と言えるかもしれませんね。

篠田:お話を伺えば伺うほど、航空自衛隊の組織とリーダーシップに興味が湧いてきました。

井筒:リーダーシップについても、自衛隊では一般の方がちょっと聞き慣れない言葉を使っています。リーダーシップという言葉の代わりに使うのが広義の「指揮」。この広義の指揮を「指揮(狭義)」と「管理」と「統御」の3つに分けています。「指揮(狭義)」は、一般の会社で言えば業務命令で、「管理」は労務管理に当たります。そして「統御」は、人格というか品格というか、部下を引きつける人間力みたいなものを指します。先輩の言っていることは危ないミッションだけど、あの先輩となら一緒にやりますよ、と人を感化させる力。これを「統御」と呼び、3つ合わせたものが指揮(広義)です。一般的に言うリーダーシップは、この広義の「指揮」に置き換えることができ、その中の「統御」を狭義のリーダーシップと捉えていただければそんなに変わらないと思います。

(井筒氏の作成・提供)
(井筒氏の作成・提供)
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篠田:ビジネスの現場には、課題自体を設定する立場の方もいらっしゃれば、上司から指示されて解決のために汗を流す方もいます。その中で今までにない新しい価値を生むためには、今おっしゃった「統御」のようなことが必要になってくるのかもしれません。自分の人格だったり、課題解決への思いだったり熱量だったり。それが人を説得し動かしていく材料になるのですね。

(構成:平林理恵)

<対談後編に続く>

幅広い知識が持て、一生の友人をつくる、ただひとつの方法

 「自分の話をしっかり聞いてもらえた」体験を思い出してみてください。
 それはいつでしたか? 聞いてくれた人は誰だったでしょうか? 意外に少ないのではないかと思います。
 他人の話は、「面倒で退屈なもの」です。どうでもいい話をする人や、たくさんしゃべる人など、考えただけでも対応が面倒です。その点、スマホで見られるSNSや記事は、どれだけ時間をかけるか自分で決められるし、面白くないものや嫌なものは、無視や削除ができます。しかし、無視や削除がどれほど大事でしょうか。
 話を聞くということは、自分では考えつかない新しい知識を連れてきます。また、他人の考え方や見方を、丸ごと定着させもします。話をじっくり聞ける人間はもちろん信頼され、友情や愛情など、特別な関係を育みます。一方、「自分の話をしっかり聞いてもらった」ら、自分の中でも思いもよらなかった考えが出てくるかもしれません。どんな会話も、我慢という技術は必要です。しかし、それを知っておくだけで、人生は驚くほど実り豊かになります。

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