商品をつくる前に「人の話を聞く」「見る」という過程を入れるのが大切

篠田:なるほど! すごく端的ですね。本当に思っていることではなく、差にフォーカスしちゃうんですね。先ほどのブランディングの話もありましたが、こうして伺ってくると、田川さんのお仕事は「聞くこと」がベースになっているように感じます。

田川:そうです。デザイン思考という言葉がよく使われますよね。デザイン思考ってデザイナーのように発想する方法です。最近できた考え方だと思われるでしょうが、これってつまり、ほぼ「ユーザー理解」のことなんです。突き詰めれば、「見る」と「聞く」ことです。普通、この「見る、聞く」のあとには、問題を定義し、アイデアを出し、試作し、テストをするというプロセスがありますが、「ユーザー理解」以外は、昔からあるエンジニアリングの当たり前のプロセスなんです。でも、「見る、聞く」は、従来のエンジニアリングの世界にはなかった。そこが補完されたのがデザイン思考です。

篠田:わあ、それって田川さんそのものですね。エンジニアリングの手前に「人の話を聞く」「見る」というこれまでなかったプロセスを入れて新しいものを生む。デザインエンジニアってそういうものなのかと今、腑(ふ)に落ちました。

田川:ああ、そうかもしれないですね。Takramにはデザインエンジニアがたくさんいますが、みんな、人が自分のつくった物を使っている姿を見るのが好きなんですよ。例えば自転車って、プロダクトとして置いてあるだけでも十分美しいけれど、そこに人が乗っているときが一番美しいんです。人の姿勢、進む方向を見据える眼差(まなざ)し、スピーディーな足の回転……人工物と人が調和している姿に感動してしまうような人たちが、デザインエンジニアリングをやっています。

 だから、僕らがデザインするということは、もちろん機械や仕組みをつくっているという部分はありますが、それと一体化して人を心地よくしたり、人の振る舞いが美しくなったりすることが目標だったりもします。関心の半分は人にあるから、人を理解しなくてはならない。だからこそ「見る、聞く」が何よりも重要になるというわけです。

次ページ 新しい問題には、メンバー間が対等でないと答えが出ない