話を聞くことは、「他者の靴を履く」こと

篠田:冒頭の話に戻りますが、誰もが話す側の改善策ばかりを考えがちで、なかなか聞くことに意識を向けられません。さらに、聞くことに関する本って、コーチングやカウンセラー、もしくは宗教家の方など、聞くというスキルを使ってお仕事されている方による「私の聞くメソッドを教えます」というスタイルのハウツー本がほとんどです。

 一方で『LISTEN』は、著者のケイト・マーフィは新聞記者なのに、彼女の仕事のメソッドについてはほぼ載っていません。Howではなく、「聞くとは何か」「なぜ聞くことが私たち個人や社会にとって大切なのか」というWhatとWhyを主に扱っているんですね。

篠田真貴子氏が監訳した『LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』(日経BP)
篠田真貴子氏が監訳した『LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』(日経BP)

荒木:それが『LISTEN』の面白いところですよね。今の篠田さんのお話を聞いて思い出したのが、ティム・インゴルドの『人類学とは何か』という本です。この本の第1章が「他者を真剣に受け取ること」で、これが著者の主張する人類学の第一原則です。

 「他者を真剣に受け取る」とはどういうことかというと、その地域にいる彼らの視点で物事を見つめ、共に生きることである。だから人類学とは、「その世界に入っていき、人々と共にする哲学である」とティム・インゴルドは表現しているんです。つまり、自分の概念を変えずに彼らを見て評価・分析することではなく、その地域にいる人々の視点になって世界を見ることが、人類学なんです。

篠田:なるほど。

荒木:この考えは『LISTEN』で書かれていることに近いように僕は思います。『LISTEN』では、聞くテクニック以上に、他者の視点で世界を見ることの勇気について考えさせられますから。

篠田:英語で「他者の靴を履く」という言葉があります。これは日本語に訳すときに注釈が必要な言葉なんです。英語圏の人たちは家の中でもずっと靴を履く生活をしていますよね。だから「他者の靴を履く」とは、まさに今その人が履いている靴に自分の足を入れ、その人から見えているものを見て、聞こえている音を聞き、他者の中に入っていくようなイメージが想起されるんです。

荒木:そうなんですね。

篠田:「他者の靴を履く」ことが、荒木さんがおっしゃった人類学の話そのものだなと思いました。『LISTEN』の中でも、まず「相手のことをもっと知りたい、近寄りたい」という好奇心が必要で、さらに勇気を出すことで、相手の視点に入っていけるのだと伝えています。

荒木:聞くことにおいて、好奇心と勇気は重要なキーワードでしょう。

篠田:そうですね。『LISTEN』はこれまでのコミュニケーションの本とは異なるので、ぜひ多くの人に手に取ってもらいたいです。

(写真:Billion Photos/shutterstock.com)
(写真:Billion Photos/shutterstock.com)

(構成:梶塚美帆=ミアキス)

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