私たちはコミュニケーションの課題に直面したとき、伝え方や話し方を改善しようとしがちだ。しかし、『LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』の監訳者でエール取締役の篠田真貴子氏は、「聞く側の姿勢やスキルでコミュニケーションは変わる」と話す。『世界「失敗」製品図鑑』の著者である荒木博行氏との対談の後編では、聞くことについて語る。

コミュニケーションは受け取り手が大事

篠田真貴子氏(以下、篠田):私たちはコミュニケーションの課題に直面したとき、「もっとうまく言えばよかった」と反省したり、「私が言うと聞いてもらえないから、上司から言ってもらおう」と工夫したり、話す側の改善策ばかりを考えがちです。でも、本来コミュニケーションって、話す側と聞く側がいて成り立つものですよね。

荒木博行(以下、荒木):そうですね。

篠田:野球のキャッチボールって、取る人の技量があれば、投げられた球が豪速球でもへなちょこでもあっちこっちへ行っても楽しく続きますし、投げる人にとって「ちゃんと取ってくれる」という安心感もあります。コミュニケーションもそれと同じで、話す側の努力だけでなく、聞く側の姿勢やスキルで状況が全く変わります。例えば、若い頃に怖い先輩がいて、威圧的な態度を取られると話す側は頭がフリーズしてしまい、何が言いたいのかわからなくなってしまった……なんて経験がある人は多いと思います。

<span class="fontBold">篠田真貴子(しのだ・まきこ)氏<br>エール取締役</span><br>社外人材によるオンライン 1 on 1を通じて、組織改革を進める企業を支援。「聴き合う組織」が増えること、「聴くこと」によって一人ひとりがより自分らしくあれる社会に近づくことを目指して経営にあたる。2020年3月のエール参画以前は、日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008~18年、ほぼ日(旧・糸井重里事務所)取締役CFO(最高財務責任者)。退社後「ジョブレス」期間を約1年設けた。慶応義塾大学経済学部卒、米ペンシルベニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。人と組織の関係や女性活躍に関心を寄せ続けている。『LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』『ALLIANCE アライアンス 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』(ダイヤモンド社)監訳。</a>
篠田真貴子(しのだ・まきこ)氏
エール取締役

社外人材によるオンライン 1 on 1を通じて、組織改革を進める企業を支援。「聴き合う組織」が増えること、「聴くこと」によって一人ひとりがより自分らしくあれる社会に近づくことを目指して経営にあたる。2020年3月のエール参画以前は、日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008~18年、ほぼ日(旧・糸井重里事務所)取締役CFO(最高財務責任者)。退社後「ジョブレス」期間を約1年設けた。慶応義塾大学経済学部卒、米ペンシルベニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。人と組織の関係や女性活躍に関心を寄せ続けている。『LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』『ALLIANCE アライアンス 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』(ダイヤモンド社)監訳。

 つまり、聞く側の態度がコミュニケーションの質を左右するんです。だから、コミュニケーションの課題に直面したときに、「私の聞く態度を変えよう」という発想にならないのはもったいないですよね。そう考えていたので、『LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』が日本でも刊行されることになりうれしいです。

荒木:僕は『LISTEN』を読んで、コミュニケーションのコントロールを手放すことの大切さを学びました。僕が『世界「失敗」製品図鑑』を書きながら感じたのは、成功者は「こういうことをすれば成功する」というような、コントロールの大切さを話す人が多いということです。でも実は、仲間の力に委ね、時には顧客の力に委ねて、コントロールを手放した先に大きな果実があるんです。自分でコントロールできないところに大きな力があるという気付きは、とても大事だと思いますね。

篠田:そうですね。私がコントロールを手放すことを学ばされたのは、子育てでした。ビジネスパーソンたるもの、先を見通して、計画通りにプロジェクトが進むように、邪魔になりそうなハードルは先回りしてどかしておく、というのがいい仕事の進め方です。これをずっと頑張ってきたのに、赤ちゃんはそうはいきませんでした。

荒木:確かにそうですね。

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