「自分も同じ失敗をしただろう」と理解しながら書いた本
篠田:『世界「失敗」製品図鑑』の好きなところは、失敗に光を当てているところです。失敗があったとしても、その企業にとっての失敗で終わっていなくて、後日談まで書かれているところに深みがあります。失敗って誰にとっても嫌なことだから、理解の解像度が上がらないんです。でも、この本は後日談まで書かれているので、失敗について理解を深めることができるのだと思います。
荒木:「失敗の解像度」は大事なキーワードです。例えば、『世界「失敗」製品図鑑』では、ある失敗を企業の知見として落とし込むためには、まず失敗するまでの過程を具体的に振り返りますよね。誰が何をしたのか、いつどんな意思決定をしたのか、といったことです。もしこれを、何も考えずに行ってしまうと、責任追及や犯人探しといったことになりがちです。しかし本当は、振り返りのフェーズが終わったら、失敗の解像度をぐっと上げるべきです。
篠田:それは、失敗を「モデル化する」ということですか?
荒木:そうです。モデル化するということは、属人性を排除して考えるということでもある。具体的なことを全部排除して、抽象化して構造を読み解くことをしないと、本当の学びにはなりません。
篠田:なるほど。この本は読み手にとってわかりやすい文章と、かわいいイラストも魅力ですよね。どのようにイメージを広げて書かれたんでしょうか。
荒木:失敗した企業を自分に、いわば「憑依(ひょうい)」させて書いています。「もし自分がその立場だったら、同じことをしただろう」と理解できるところまで情報を調べました。第三者から見て「バカだなあ」と思うような間違った選択に思えても、調べていくうちに、そうせざるを得ない構造があったことがわかってくるんです。
篠田:米フェイスブック(現メタ)が開発したホームアプリ「フェイスブックホーム」の失敗はまさにそれですね。失敗も覚悟の上だったのではないかと分析されていたのは、憑依のたまものです。

荒木:フェイスブックホームについては、批判する記事がたくさん出ていました。でも、これだけ成功している企業が、明らかに間違った選択を取るわけがないんです。その理由は何なんだろうと調べていくと、そうせざるを得なかった構造がわかってきます。
篠田:「20世紀のマーケティング史における最大の失敗事例」として有名な、コカ・コーラ社の「ニュー・コーク」も取り上げられていました。
荒木:ニュー・コークの失敗の理由として、よく「顧客志向の欠如」といわれています。確かにそれが失敗の理由ではあるのですが、ではなぜその構造が生まれてしまったのか、という考察をしました。「顧客志向の欠如」とだけ聞くと、コカ・コーラ社は傲慢だったんだろうなぁと想像するかもしれませんが、そうなってしまう構造を考えると、自分も顧客志向が欠如していかざるを得ない感覚が理解できます。

(構成:梶塚美帆=ミアキス)
すごい会社もハデに「失敗」していた!
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荒木博行(著) 日経BP 1980円(税込み)
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