成功から学ぶか、失敗から学ぶか
篠田:成功と失敗にまつわる、印象に残っている話があります。『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』の著者であるピーター・ティールが来日したときに、「失敗からは本質的には学べない」と話していました。
なぜなら、成功ってとても難しいことだから。仮に「5つの条件が全てそろったら成功する」として、成功したらその条件がわかるけれど、失敗したら欠けていたものは何なのか、そしてどうすべきだったのかが学べない、と言っていたんです。だから、成功体験がある人は失敗事例から学べるかもしれないけれど、失敗しかしていない人は学べないのだそうです。
荒木:なるほど。
篠田:このピーター・ティールの話について、荒木さんはどうお考えになりますか?
荒木:私はピーター・ティール以上の何かを語れる人間ではありませんが……。その話は、要するに「成功すれば、後から理由を分析して、要件を洗い出すことができる」ということですね。その通りだと思いますし、成功したから言えることはあるでしょう。
ただ、成功すれば成功の法則が導き出せるわけではなく、むしろ永遠にわからないものだと思います。なぜなら成功には、「運」や「縁」などの偶然の要素も重なっているはずだからです。
篠田:ビジネスは再現性がないですからね。お話を伺って、荒木さんは「ピーター・ティールの考え方は範囲を限定すればある話だ」とおっしゃっているようにも感じました。彼が生きてきたベンチャービジネスの世界に限定したら、一定の成功の法則はあるのかもしれません。
荒木:まさに。そして成功者は「これをやれば成功する。成功しないのはこれをやっていないからである」という話をしがちです。
しかし、実際には成功するまでの過程で様々な偶然に恵まれていたはず。それらをなかったことにして、「成功した」という立場で語られることにどれだけの意味があるのでしょうか。だから、我々が成功者の話を聞くときには、「成功の幻影」に拘(こだわ)りすぎない方がいいと思っています。
篠田:成功物語には魅力がありますからね。子どもがおとぎ話に胸をときめかせるのと同じ構造です。ただしこれは悪いことではなく、物語として楽しむ分にはいいということですね。

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