企業のゴタゴタに巻き込まれたニュートンとAIBO 

吉川:ところで『世界「失敗」製品図鑑』を読んでいて個人的に思い出深かったのは、先ほど荒木さんも話されていたアップルのPDA「ニュートン」です。実は私も持っていました。若い頃、相当無理して買った(笑)。今と比べると、めちゃくちゃ初歩的なことしかできなかった記憶があるんですが、ただやっぱり夢がありました。荒木さんのご本で、どこに無理があったのかっていうことが明確に分かって、モヤモヤが一つ片付きました。

荒木:冒頭に話したように、ニュートンはプロダクトとしての無理と、経営としての無理の両方があった話なんですよね。ニュートンにあえて人格を与えるなら「親会社のゴタゴタなんて知ったこっちゃねえ」と思っているでしょう。

吉川:ニュートンの後には、IBMの「パーム」などコンパクトなPDAがバンバン出ました。業界としてもやはりインパクトは大きかったんでしょう。アップルの経営が健全に運営されていれば、ネットの波に乗ってニュートンというブランドも生き残った可能性もありますよね。そうすると今度は、iPhoneの大爆発がなかったかもしれないというパラレルワールドも考えられます(笑)。

荒木:そういう話ってほかにもよくあるんです。例えば、ソニー(当時)の犬型ロボット「AIBO」も、ソニー本体のゴタゴタにプロダクションが犠牲になった事例です。

 1999年にロボット事業を実現させたAIBOは2003年にあったソニー株の暴落、いわゆる「ソニーショック」のあおりを受け、もともとハードウエア路線には反対だった経営トップの意向もあって、2006年には生産中止に追い込まれています(ソニーは2018年にバージョンアップした「aibo」を発売した)。

吉川:いまやロボットは有望視されている産業の一つに数えられていますから、AIBOの先見の明は大変なものでしたよね。

荒木:AIBOも適切なタイミングでローンチされていたら、現在まで続くヒット商品になっていたかもしれません。後知恵ではありますが、教訓をこの二つの製品の顛末(てんまつ)に見いだすとしたら「新規事業の担当者は、マーケットの文脈を読むだけでなく、自社の経営の文脈を読み、経営の文脈に自分のプロダクトが乗っかるようなストーリーを描きましょう」となるのかもしれません。

吉川:荒木さんは『世界「失敗」製品図鑑』の中で、「プロダクトが会社のストーリーと齟齬(そご)しないようにする」といった分析を、「『これだけは避けておくべし』というネガティブリスト型の学習」と位置付けています。成功例に注目しがちな私たちが陥りがちな生存バイアスを補正するためには、こうしたネガティブリスト型の学習は不可欠だと思います。名将、野村克也監督も「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と言ってますしね。

(写真:AJP/shutterstock.com)
(写真:AJP/shutterstock.com)

(構成:いつか床子)

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