失敗を語り合うことはケアにつながる

吉川:そもそも荒木さんは、ある種ストロングスタイルの業界にいらっしゃるのにどうしてこういうテーマの本を書かれようと思ったんでしょうか?

荒木:身も蓋(ふた)もなく言うと日経BPさんからご依頼がきたんですけど(笑)、そこに僕の体験と符合していた部分があったんです。先ほど言ったことにもつながってきますが、僕は以前からビジネスの世界にままある「成功者によるマッチョイズムなナラティブ(語り)が息苦しい」と感じていました。

 一方で、たまに語られる失敗談からは「そうだよね、そういう難しいところがあるよね」とみんなからすごく共感が生まれやすい。失敗が人の心を開かせる題材になっているなと感じていました。

吉川:なるほど。失敗が共感を。

荒木:はい。「強くありたい」という人にもやはり、「どうしても失敗してしまう。でもそれは自分の弱さなのか?」みたいな言葉にできない屈託があるんですよね。そこに「こんな大企業でもこんな失敗してるよ」という話が出てくると、彼らがバイアスから離れて、物事を見るきっかけになるような効用があったんです。

 だから失敗のケーススタディーって潜在的にすごくニーズがあるし、学びの扉を開くんじゃないかと現場体験を通して思っていたことなんですよね。だから日経BPさんからオファーをいただいたときには、「僕に書けるかどうかは分からないけどそれは確かに必要だ」という思いがあったんです。

吉川:失敗談が共感を呼ぶというのは実際あるだろうなと思います。しかも、そうした共感はビジネスパーソンの世界観や心構え、エートス(模範)みたいなものを少し変えていくような気もするんです。

 例えば『世界「失敗」製品』で取り上げた製品を擬人化して、20人くらいで車座になっておのおのが直面した状況を語り合ったら、アルコール依存症の当事者が集まって行うミーティング(アルコホーリクス・アノニマス。AA)のように、お互いを理解し、支援し合える「ケアの空間」ができると思うんですよ。

荒木:いいですね、それ。

吉川:そういった学びと癒やしとお互いのケアみたいなことがビジネスパーソンの間でもできそうな本ですよね。例えばこの本を読書会の課題にするとしたら、本の内容についてひとしきり話した後に、それぞれの体験も自然と話されると思います。拝読しながらそういうことも想像して愉快な気持ちになりました。

荒木:癒やしやケアといった部分が、やっぱりビジネスパーソンにも必要なんですよね。

(構成:いつか床子)

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荒木博行(著) 日経BP 1980円(税込み)

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