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 最近、いろいろなところでディープテックの話をするものの、「んっ?」という顔をされることがまだ多い。今後、日本が世界に貢献していくうえではディープテックこそが最善の方法なのに、その意味を深く理解している人は、思いの外少ない。それはつまり、社会貢献の機会を逸しているばかりか、ビジネスの機会をみすみす逃していることにほかならない。

 2002年にリバネスを創業して以来、私は、共生型産業に象徴される「東洋的思想」を推し進める形でここまで歩んできた。リバネスが行っているアクセラレーションプログラムには、当然、西洋的な思想が入っているけれど、そのフレームを使いつつ、共生型産業の思想をより濃く加えたものが「リアルテックアクセラレーションプログラム」だと言える。

 「期間を決めて、バルクでプロジェクトを推進していく」という西洋的なビジネスのロジックを取り入れつつ、共生型、あるいはサステナビリティーといった東洋的な思想を、「資本主義の当たり前」が変わっていく「その先」へとつなげていく。それこそが、ディープテックを通じてリバネスが実現したいと考える価値にほかならない。

 その意味ではビル&メリンダ・ゲイツ財団に象徴されるように、西洋的なロジックを最大限に用いることで成功を収めたITの巨人たちが、こぞって、世の中のディープイシューに対してディープテックを組み合わせることで解決を試み、しかも「その活動こそがビジネスなのだ」という、まさしく共生型の価値観を推し進めていることは、非常に心強い。

 実際、世界は共生型産業へと急速にシフトしている。ウーバーやグラブは、そうした共生型産業の代表的な事例だろう。彼らにとって、絶対に潰れては困る仲間はトヨタやホンダといったクルマメーカーだ。一方で、トヨタやホンダにしても、ウーバーやグラブといった新しいプレーヤーの登場は、モビリティーの可能性を押し広げてくれると思ってもみなかった「お隣さん」のはずだ。

 実は、私が大学時代に研究していたテーマは「相利共生」だった。たとえば根粒菌とマメ科植物の関係でいうと、根粒菌は植物に窒素を与え、植物からは資源である炭素を受け取っている。そんな、共に生きるためのエネルギーをお互いが提供しあうという関係性。それが相利共生だ。

 こうした相利共生型の持ち合いを、日本は昔から得意としてきたはずだった。持続可能な100年企業、200年企業がいくつも存在したにもかかわらず、西洋的なゼロサムの仕組みを取り入れたことで、金融市場的にはよくなったかもしれないが、持続可能な企業としての「生命力」は弱まったといえるのではないだろうか。

 ビル&メリンダ・ゲイツ財団のような社会起業家の登場や、ウーバーのようなシェアリングエコノミーの隆盛。こうした世界の潮流の真の意味を、日本の企業はどこまで理解しているのだろうか。そうした状況に対する警鐘の意味合いも、この連載には込められている。

 その意味では、PDCAサイクルをグルグル回している日本の企業の方々にこそ、この本を手に取っていただきたいと思っている。PDCAサイクルは決して悪いわけではないけれど、「これからの課題」を解決し、それを「サステナブルなビジネス」へとつなげていきたいのだとしたら、プランから始めても埒(らち)が明かない。

 必要なのはプランではなくパッション、具体的にはQPMIサイクルだ。QPMIサイクルとは、リバネスが提唱しているイノベーションを生み出すための新しい概念である。質(Quality)の高い問題(Question)に対して、個人(Person)が崇高なまでの情熱(Passion)を傾け、信頼できる仲間たち(Member)と共有できる目的(Mission)に変え、解決する。そして諦めずに試行錯誤を続けていけば、革新(Innovation) や発明(Invention)を起こすことができる。そんな考え方だ。

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