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 以前、この連載で取り上げたDG TAKANO(東京・台東)の高野雅彰氏が過去にこのような発言をしたことがある。「テレビの技術が液晶に切り替わったことで、あるブラウン管の会社が倒産してしまった。しかし、もしブラウン管の技術が違うことに使われていたら、いまもこの会社は存続していたかもしれない」。

 テレビ向けのテクノロジーとして、ブラウン管の役割が終わったことは間違いない。だが、違う場所でその技術が活用されていたら、何かしらの課題を解決していたかもしれない。

 しかし、既にブラウン管の技術者はいなくなってしまった。もし、今後、ブラウン管の技術を応用することで解決できる課題があったとしても、また最初からノウハウを積み上げていかなければならないということを示している。

 第2のブラウン管を生み出さないためには、企業がディープテックの可能性に目覚めることが何より重要だ。いち早く、「既にある課題」と「古ぼけた技術」をマッチアップさせることが、技術者を残すことにつながるからだ。そのためにも企業は、課題を見つけるための行動をできる限り迅速に起こす必要があるだろう。

東洋的思想を思い出せ

 思い返せば日本にも、日本語というローカリズムを武器にして世界と戦ってきた時代がある。うま味を「UMAMI」にまでグローバル化させた味の素、「カイゼン」という概念を世界に植え付けたトヨタ自動車などは代表例だ。「音を持ち歩く」という概念を作ったソニーグループも、もちろんその系譜に入る。

 ほかの国が持たない感性や概念、いわば東洋思想によって世界と対峙してきた日本だが、いつの間にか西洋的な感覚によるビジネスが浸透し、当然のことながらグローバルで勝てなくなっていった。

 ここは、極めて重要なポイントだ。東洋的な考え方、あるいは、セレンディピティ(偶然の出会い)のように、複雑系の中に何かを見いだすことを、本来日本人は得意としていたはずで、いま再び、その感性をビジネスの現場に呼び戻す必要がある。

 知識経営の生みの親である野中郁次郎先生が、こんなことを言っている。「みんなすぐに計画を立てて、計画通りやろうとするからダメなんだ。偶然を見つけにいく、偶然を楽しむという心が長期的にないのだったらムダだ」と。

 何かを出そうとしているうちは、絶対に出てこない。楽しんだり、セレンディピティを感じたりする感性が、これからの共生型社会ではますます重要になってくるだろう。

 「とりあえずやってみよう」「とりあえず組み合わせて作ってみよう」という好奇心がなければいけない。

 とりわけ、ディープイシューでは、本当に心で感じて解決しようと思わなければ、何も生まれてこない。ディープテックというのは、ディープイシューを解決するテクノロジーの集合体にほかならない。偶然集まった複数のテクノロジーが、その課題を解決する。

 その中心にあるのは、東洋的な思想であったり、偶発的なものであったり、長期的な視点であったりする。それらに加え、持続可能というキーワードが入っていないと、ディープテックという言い方をしてはならないだろう。

 さらに言うなら、ディープテックとは大企業や国内のスタートアップ、そしてそこに東南アジアのスタートアップや研究者や国といった、多様なプレーヤーが交ざり合いながら進んでいく「運動体」である。そこに必要なのは「中央統率依存」ではなく、契約や組織属性といった既存の枠組みにとらわれない、多様なメンバー間に相互作用がある「流動的な関係」にほかならない。

 そこではお金がすべてではなく、知識、データ、スキル、経験、関係性、市場アクセスといった価値や概念が、価値交換のアセットとなる。そんなエコシステム(生態系)が築かれることで、ディープテックという運動体は前進していくことになる。

 そうでないなら、ハイテクを求めればいいだけだ。ひとつのテクノロジーで、これだけもうかるということに走ればいい。しかし、そういう時代は既に終焉(しゅうえん)を迎えつつある。

 ディープテックというキーワードに対して、逃げることなく対峙する時代に突入しているのだ。地球の環境問題は待ったなし。だからこそ長期的な視点で、肩の力を抜いて、新しい感覚で取り組まなければならないだろう。

 かつて日本は、東洋的な思想でものづくりをして世界にインパクトを与えた。それに対し、東南アジアは「Look East」でこちらを模範としてくれた時期もあったが、もはや立場は逆である。日本が彼らを見て、学ぶ時代がやってきたのだ。

 彼らからイシューを学び、それに対してわれわれのディープテックを持って行く。それが、この先の地球に必要な、あるべきエコノミーとエコロジーではないだろうか。

(この記事は、書籍『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』の一部を再構成したものです)

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