「最先端の技術の中にローテクが入っていく」事例として、改めてユーグレナを挙げたい。開発に着手してからおよそ半年でミドリムシの屋外大量培養に成功したユーグレナだが、その背景には、40年間蓄積されていたクロレラを大量培養するローテクなノウハウがあった。そこに、大阪府立大学でミドリムシの研究をしていた中野長久教授の先端的なノウハウを加えたことでブレークスルーにたどり着いたわけだ。

 こうしたローテク+ハイテクを、「バングラデシュの栄養失調問題」というディープイシューの解決に向けた結果、世界初の大量培養に成功したのである。ミドリムシからは燃料も作れ、さらに搾った後に残ったものは飼料にもなっている。完全循環型のサーキュラーエコノミー(循環型経済)を作ろうというユーグレナの世界観は、現実味を帯びている。

 ちなみに、バイオマス関連では、5Fと言われているフォーカスポイントがある。Food(食料)、Fiber(繊維)、Feed(飼料)、Fertilizer(肥料)、Fuel(燃料)の5つで、ユーグレナは、そのすべてを手掛けることを目指している。

テクノロジーとディープイシューを行き来する

 前回紹介したポンプから、ユーグレナまでの事例に共通していることがある。それは、現状、「自身が持つ一番強い技術を狭い領域でしか使えていない」と悟ったこと、そしてそれ以外の可能性を探っていくことで、新たなる価値を社会に提供しているという点だ。

 ポンプの場合、一番強い技術は「水の圧力を変えて出せること」だった。その技術を活用し、下水やビルでの需要に応えていたが、「水ではなかった場合」、つまりは「ポンプの中に何を通すか」という視点で考えたことで、「空いている場所」が見えたのである。

 言い換えるなら、技術ドライブで「どこまでしかやっていないか」を顧みることでもある。あるコーティング剤を作ったけれど、ガラスにしか塗布していないし、平面向けにしかやっていない。だとしたら「もし、粒にコーティングすると何が起こるか?」といった考え方を、まずはテクノロジーベースで持つ。その一方で、まったく別の角度からディープイシューを持ってくる。

 テクノロジーとディープイシュー、その双方を行き来する。これこそが、いま、日本の企業が持つべき視点にほかならない。なにも、最新テクノロジーである必要はない。むしろ枯れた技術、眠っている技術こそがディープイシューの解決に役立つかもしれない。基本的な技術というものは、得てして汎用性が高いものだ。そして、日本が持つ強みは、そうした基盤技術を持っていることなのだ。

 ポンプひとつをとっても農業、医療、環境、生活、インフラといった分野に入っていくことが考えられる。ゼロから新規事業を立ち上げようとするのではなく、ディープイシューと自社の強みを照らし合わせ、何かが生まれてこないかという発想をすることで、未来が拓(ひら)ける。

 これまで考えてこなかった領域について検証することで、セレンディピティ(偶然の出会い)が生まれるかもしれない。そのセレンディピティを誘発するディープイシューの宝庫は、東南アジアなどのエマージングマーケットに眠っているというのはこの連載で繰り返し述べてきた主張だ。

(この記事は、書籍『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』の一部を再構成したものです)

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