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 前回、紹介したファーメンステーション(東京・墨田)、ユーグレナ、日本環境設計(川崎市)。この3つのスタートアップに共通しているのが「サーキュラーエコノミー」という観点だ。従来の経済活動(エコノミー)が「資源の採取→製造→廃棄」という一方通行、つまり、リニアエコノミー(直線的経済)だったのに対し、サーキュラーエコノミー(循環型経済)は、生産・消費・廃棄という各ステージにおいて資源を循環させることで、持続可能な社会の実現とともに経済成長をも見据える、という考え方だ。

 例えば、欧州には「BIO HOTEL」という基準がある。ホテルの食事は地元の完全オーガニックな素材を使用する、シャンプーやせっけんなどもすべてオーガニック、リネン類はもちろん、建材、内装材なども可能な限り自然素材を利用する、再生可能エネルギーを100%使用する、CO2排出量を継続的に削減していくといった項目があり、最低でも3項目を満たすことが義務付けられている評価基準だ。

 基準のクリアは非常に厳しいが、環境負荷を最低限に抑える姿勢を見せることは、これからの時代において非常に大きなアピールポイントとなる。既にサーキュラーエコノミーがビジネスにつながる時代に入っている。

 ちなみに、先述のチャレナジー(東京・目黒)と植物工場が融合すると、サーキュラーエコノミーという観点から見て大きな可能性につながることになる。例えば、東京都千代田区と静岡県富士市に拠点を持つファームシップ(東京・千代田)というアグリベンチャーは、食料をつくるところから届けるところまでを担うFoodTech(フードテック)カンパニーである。

 彼らが唱える「植物工場を様々な場所につくり、それを中心に街をつくっていく」というコンセプトは、まさにディセントラライズド(非中央集権型)な発想だ。このファームシップ単体ではフードテックやアグリテックに閉じてしまうが、例えばチャレナジーとつながることで、循環型の社会をつくるうえで最も重要な「エネルギー」と「食料」の問題が解決に向かうことになる。風力で発電し、その電力で植物を育て、収穫時に発生するゴミは家畜のエサに回すといった、エネルギーと食料が循環した状況が生まれるからだ。

 ちなみに、ユーグレナは既にチャレナジーによる風力発電や太陽光発電によって生まれたエネルギーで燃料と食品をつくり、そこから出た搾りカス(=バイプロダクト)を牛や魚のエサに回すというサイクルの研究を始めている。

 さらに、エネルギーと食の循環を統合的に組み立てていくと、完全循環型の街づくりへつながっていくと考えられている。

 今、植物工場に多くの投資家が注目している理由は明確だ。街づくりの中心に植物工場と、その生産を支えるクリーンエネルギーがあることで、生産と消費の距離が縮まり、流通コストや輸送時のCO2削減につながる。加えて、離島をはじめとする非中央集権的な環境での豊かな暮らしが現実味を帯びてくるからだ。先述のファームシップや無人の植物工場を運営するプランテックス(千葉県柏市)といった日本のスタートアップの価値は、今後ますます高まっていくだろう。

「枯れた技術」でも世界に貢献できる

 ここまで様々な角度から国内のディープテックベンチャーを取り上げてきたが、最後に、「枯れた技術」を使って社会課題の解決に挑むスタートアップを紹介したい。日本の科学技術を生かした「ジェネリック医療機器」を製造・販売するレキオパワー(那覇市)である。ジェネリック医療機器とは、ジェネリック医薬品と同様、特許権が期限を迎えたことによって低価格での生産が可能になった医療機器のことを指し、レキオパワーはこうしたジェネリック医療機器を、教育現場や自由診療領域、さらには発展途上国へ普及させることを目指している。

 レキオパワーいわく、通常の医療機器とジェネリック医療機器とでは、その社会的な役割が大きく異なるという。大手メーカー製品が行き渡っている「保険診療領域」ではなく、その「外」に向けて医療機器を作ることで、救える命、育てられる才能があるとレキオパワーは考えている。

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