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 SDGs(持続可能な開発目標)の文脈の前にはCSRという考え方がある。CSRとは「Corporate Social Responsibility」の略で、企業の社会的責任という意味。社会課題に向き合うべき時代の流れの中で、どう対応すべきかの責任主体を明確にしていこうという考え方で、まず「持続可能性」という概念が1987年の国連『環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)』が公表した報告書『我ら共有の未来(Our Common Future)』で提起された。同報告書では、「持続可能な開発」を「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義している。

 こうした定義に基づいてCSRの重要性が2000年に入って議論され、2010年には企業だけではなく組織がどう対応すべきかという形の国際規格として、ISO26000のガイダンスとして制定されている。

 ただ、本規格の国内審議をしていた財団法人日本規格協会内の資料を見ても、ISO26000を順守する直接的な経済メリットはうたわれていない。

 こういった流れを受けて提唱されたのがCSVとなる。ISO26000発効の1年後に、競争戦略の権威であるマイケル・ポーター氏らが提唱した。

 CSVは「Creating Shared Value」の略で、直訳すれば共有価値の創造、つまり社会価値と経済価値の双方を実現させるという考え方となる。CSRを本業の中に組み込むことで、社会的価値だけでなく経済的価値も獲得しようという流れが生まれた。

 CSR、CSVといった企業側の動きに対し、投資側の流れの中で生まれたのが「ESG投資」である。ESG投資は、2006年の国連責任投資原則(PRI)の提起がきっかけとなり、経済だけではない環境、社会への長期的貢献「トリプルボトムライン」を重視した世界共通の投資ガイドラインとして始まった。

 これまでの一般的な投資は短期的な収益とリスクで判断していたが、第3の投資判断軸として環境(Enviroment)と社会(Society)への長期貢献、そして経済も含めた持続的成長に統治するガバナンス(Governance)を加えることで、収益性に加えてESGを伴った企業・団体に投資が集まる流れを作った。

 世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年9月にPRIに署名。2018年には世界で約3400兆円(30兆6830億米ドル)、日本も約240兆円(2兆1800億米ドル)の投資規模となっている。

 では、こうしたCSR、CSV、ESG投資、そしてSDGsという流れを受けて、実際テクノロジーの力を活用してビジネスとして収益を上げている事例を紹介していこう。

 SDGsで定められている17の目標の中で、ディープテックベンチャーと相性がいいのは12番の「持続可能な消費と生産パターンを確保する」である。ほかの目標と同様、SDGsの12番も具体的目標が2030年に向けて定められており、成長にあった持続的消費を続けるためにReduce(削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再生)とするサーキュレーションエコノミー(循環型経済)が重視されている。

 ダボス会議の主催者として有名なワールドエコノミックフォーラムが世界45カ国から選んだ12のサーキュレーションエコノミー(循環型経済)ベンチャーの中から、2つを紹介したい。

食糧ゴミをカメラでチェックし、年間30億円のコスト削減をAI(人工知能)で実現

 英国のWinnowはキッチンの食糧ゴミを最適化する事業を展開している。食糧のゴミ箱にカメラと重量計が設置されており、カメラがゴミの変化を検知するとAIがその内容と重量を記録。食糧廃棄を減らす方法をAIがアドバイスする。

 このビジネスは既に世界40カ国以上で展開されており、年間に約30億円のコスト削減を実現しているという。

 彼らは売上高を公表していないが、これだけのコスト削減を実現していればビジネスとして持続的にもうけていくことが可能だろう。

NIKEやIKEAも活用する全く汚水を出さない染色技術

 アパレル産業にとって色鮮やかな織物は大事だが、染色工程から出る大量の化学物質で汚染された水の排出は、中国、インド、バングラデシュなどで大きな問題となっている。

 オランダのベンチャーであるダイクー・テキスタイル・システムズは水やケミカル物質を、染める対象以外には全く使わない染色技術を開発した。液体と気体の「超臨界状態」になった高圧の二酸化炭素を使うことで、深く鮮やかな染色を可能にしており、この技術で色を染めると乾かす必要もないため時間と電力消費を削減できる。また、利用する二酸化炭素も98%は繊維に吸収され、残りもリサイクルされるという循環を実現している。NIKEやIKEAなどと提携をしている点も注目だ。

(この記事は、書籍『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』の一部を再構成したものです)

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