前回の記事はこちら

 前回も触れたライスハスク(もみ殻)は燃料になるだけではない。ベトナムの大学が、もみ殻から超高品質の「シリカ」を生成する研究に成功した。工業分野から化粧品、医薬品、または食品添加物など、様々な用途に使えるシリカだが、実は今後、資源として不足してくることが予想されている。この先、価格の上昇も想定される素材をバイプロダクトで生成できる技術は、サーキュラーエコノミー(循環型経済)としても大きな可能性を持っている。

 シリカには具体的にどのような用途があるのだろうか。

 マレーシアとフィリピンのチームがユニークなアイデアを持っている。マレーシアのIIUM(マレーシア国際イスラム大学)という大学のチームは、シリカと金属粉末を混合させることで、ディスクブレーキやギアといった硬質な部品を、安価で作る技術の開発に成功した。そうした部品がトラクターなどに活用されれば、農業における一つの循環型社会が成立する。

 もう一つが、フィリピンのBac Offという大学のチームだ。東南アジアにとってゴムは重要な産業だが、天然ゴムの樹液は腐りやすい性質を持っている。しかし、米由来のシリカにニッケルのナノ粒子を付着させて粉末状にすることで、殺菌効果が期待できるという。こちらもバイプロダクト発の技術であり、安価にゴムの品質向上を実現できるとして注目を集めている。

 ドローンによる生産性の向上、もみ殻を使って乾燥させることで上がる品質、さらにはもみ殻からシリカを生成し、部品などに転用していくアイデア。米に焦点を当ててみることで、様々なイシューが浮かび上がり、その解決に向けたアイデアが次々に出ていることがお分かりいただけただろうか。そして、こうしたアイデアやテクノロジーを「補完する技術」を持つ日本の企業は、決して少なくない。

課題の可視化がアイデアを集める

 さてここで、ディープイシューを「可視化」することの意味について考えてみたい。課題を分かりやすく顕在化させることで、人々の「気づき」が広がるケースは思いのほか少なくないからだ。その象徴的な事例として、オゾンホールを挙げてみたい。

 エアコンや冷蔵庫、スプレーなどに使用されていたフロン(クロロフルオロカーボン類)によって、オゾン層が破壊される可能性について言及されたのは1970年代半ばのことだった。人工的な物質であるフロンは、地上付近では分解されにくく、大気の流れによって成層圏まで流れていく。そして強い紫外線によって分解され、塩素を発生する。この塩素が触媒となってオゾンが破壊され、オゾンホールが生成されていくというメカニズムだ。このオゾンホールは南極上空を中心に広がり、南半球を中心に、皮膚がんになりやすくなる懸念が叫ばれた。

 しかし、オゾンホールのことをどこか他人ごとと考えていた人々の動きは鈍く、抜本的な対策が取られることはなかった。その風向きが、1980年代半ばに変わる。ようやく、南極上空にぽっかりと開いたオゾンホールの衛星画像を世界中の人が目にしたからだ。

 そのインパクトはすさまじく、オゾンホールという地球のディープイシューへの対策が、ついに世界全体で共有されることとなった。その後は、1987年にモントリオール議定書が採択され、1996年までにフロンを全廃することが定められた。

 現在、オゾンホールは確実に縮小しており、21世紀半ばには、オゾンホールが発生する以前の段階にまで戻るとされている。1980年代当時、「フロンをやめるなんてありえない!」と世界中の多くの関連企業は反対していたが、代替フロンへとシフトしたことで、結果として売り上げも上がることとなった。人類全体が、「成功体験」を得た。

 オゾンホールという課題については解決の糸口が見えたが、地球レベルのディープイシューは、温暖化をはじめ、まだまだ多い。この連載でも以前触れたオーダシャスプロジェクト(地球上の二酸化炭素を減らすための試みとして、マメ科の根粒植物を活用する計画)のように、こうしたグローバルなイシューの解決に挑むアイデアを集め、資金調達という形で支援する動きも広がっている。

 スウェーデンに住む15歳の少女が、気候変動に対してアクションを起こさない大人たちに怒りの「学校ストライキ」を行い、そのムーブメントが徐々に世界に広がっていったのは記憶に新しい。しかし、次の世代に「きれいな地球」を渡すためには、課題解決につながるサステナブルなアイデアを持つ個人やチームに対し、より積極的な投資を行うことが急務であり、しかもそれがビジネスにつながるという流れを、改めて意識する必要があるだろう。

「もうかる持続的ビジネス」として実現するディープテック

 こうした地球規模の課題を解決していく文脈で、よく語られるのがSDGsだ。SDGsとは持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)として2015年9月の国連サミットで採択されたもので、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までの国際目標である。

 持続可能な世界を実現するための17のゴールと169のターゲットから構成され、地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っている。もともと2001年に採択されたMDGs(Millennium Development Goals)が発展途上国向けだったのに対して、SDGsは発展途上国だけではなく、先進国自身も取り組む全世界を対象とするものであり、日本も含め各国が目標を分解し、設定するところまで進んでいる。

 企業からみると、こうした目標は「受け身」で捉えられ、義務・責任として受けとられてしまうかもしれない。実際、歴史を振り返ってみると、コストとして負担のかかりがちな義務や責任として捉えられてきた事実がある。だが、これらを技術やアイデアの力できちんともうかるものに変え、持続的に自走可能なものにしているのがディープテック事業の特徴である。

 次回は構造的理解のためにSDGsに至るまでの流れを振り返ってみよう。

(この記事は、書籍『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』の一部を再構成したものです)

この記事はシリーズ「眠れる技術「ディープテック」を解き放て」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。