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 1990年代から「世界の工場」の役割を担ってきたのが中国であったことに異論はないだろう。しかし、近年の高い経済成長率や個人消費の上昇とシンクロするかのごとく、2010年代に入ると製造コストが毎年16%のペースで高騰し始める。

 さらに、1979年から2015年まで続いた厳密な一人っ子政策の余波で、今後中国は、「生産年齢人口の減少」という日本と同じ課題に急速に直面していくことになる。

 大きくはこの2つの観点から、今後は、東南アジアが「世界の工場」の役割を担うことはまず間違いない。東南アジア諸国にはシンガポールやマレーシアといった金融や技術の拠点が存在することも、世界の工場化へ向けて好条件といえる。

 生産拠点の移動は、東南アジア諸国の経済を大きく変えていくことになるはずだ。

 しかしその一方で、課題も生み出していくことにもなる。例えば工場やインフラのメンテナンス。これは、現時点でも多くの人手を割いている重労働であり、事故発生率も決して低くない。こうしたローカルのディープイシューに挑んでいるのが、マレーシアのデータカンパニー「エアロダイン」である。

エアロダインが地域にもたらすもの

 2014年にマレーシアで設立されたスタートアップであるエアロダインは、電線や通信鉄塔といった広域にまたがるインフラ設備の点検や建築現場のモニタリングに、マルチコプター型のドローンを活用している。具体的には、ドローンで取得したデータ(画像や位置情報)を基にAI(人工知能)が故障部分を自動で判定したり、クラウドプラットフォームを通じて3次元データを生成したりして、クライアントに提供している。

 エアロダインは、こうしたサービスのことを「DaaS(ドローン・アズ・ア・サービス)」や「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)」と呼び、AIや先端テクノロジーを導入することで、コスト削減やヒューマンリスクを下げようと試みている。

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