特化型アクセラレーターの台頭
世界中の工場やガレージがオンライン化すると、中国や香港などを中心にシリコンバレーのスタートアップや世界中のハイテク企業が各地に設置されるようになった。やがて中国の深圳ブームが起こり、これらは「中国のシリコンバレー」とも呼ばれるようになる。
2011年には世界最大のハードウエア専門アクセラレーター「HAX」が生まれた。
また、2010年ごろから低価格な個人用3Dプリンターが市場に出回るようになり、誰でも簡単にハードウエアをプロトタイピングできる「メーカームーブメント」の時代がやってくる。
この流れをさらに多様化し、加速させるのが人工知能(AI)だ。2012年には第3次AIブームが湧き起こるきっかけとなった2つの出来事があった。ひとつは、「ILSVRC」という画像認識率を競い合う大会でディープラーニング(深層学習)を使ったチームが圧倒的勝利を収めたこと。もうひとつは、コンピューターが猫という概念を自分自身で学習できるようになったという研究結果をグーグルが発表したことだ。
これらの背景にあるのは、同時期にハードウエア、ソフトウエア、そしてデータ量というすべてにおいて、飛躍的な向上があったことが挙げられる。
このAI分野の技術革新は、バイオや医療分野にも大きな影響を及ぼした。例えば、疾患関連遺伝子配列の研究だ。遺伝子はA、C、G、Tの異なる4つの基本単位の組み合わせにすぎない。
しかし、それがヒトゲノムそのものとなれば膨大な量となる。比較検討しなければならない場合、人がしらみつぶしに精査することは不可能だが、AIはそれが得意だ。つまり、遺伝子を活用した研究の大規模化が可能になるのだ。
実際、バイオラボのように10億円規模の遺伝子操作工場を造り、マシンをインターネットでつないでしまえば、リモート操作でも遺伝子実験を行える。2014年には、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボが高校生でも実験可能なツールと環境を設けている。もはや遺伝子実験には特別なプログラミングすら不要になっている。
つまり、この頃になるとアクセラレーションによってテクノロジーの自由化が進み、インターネットと人やモノが自在につながることで、個人がイノベーションを起こすためのインフラが出そろった。極端に言えば、アイデアを持つ人なら国も年齢も立場も問わず、誰でも実験できる環境ができたというわけだ。
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