テクノロジーイノベーションの歴史において、米シリコンバレーの中心地にある1891年設立のスタンフォード大学こそ、シリコンバレーの歴史の中心だと捉える向きも多いが、実はその前に1868年に設立されたカリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)があることを忘れてはならない。その後、第2次世界大戦の勃発によって、スタンフォード大学を中心に軍需産業がこの地で発展していく。
後のハイテク産業のはしりとして、1938年にガレージからヒューレット・パッカード(HP)が始まっている。その後、1970年代から1980年代にかけて半導体産業が活発になっていくわけだが、同時期にバイオベンチャーのパイオニアとして、ジェネンテックが登場。初期のバイオベンチャーブームをけん引した。当時はまだ一本柱のテクノロジーによって産業が形作られていた時代である。
やがて、半導体発展の歴史は、1990年代から2000年代にかけ、PCの時代へと移行していく。ここで強調しておきたいのは、半導体の後にPCができたこと、つまりハイテクによってインフラが整ったからこそ、次のPC産業が生まれた点だ。
1990年代に入り、PCの上にインターネットが勃興する。1995年以降になると、やがて世界を席巻するインターネットの時代が始まる。ヤフー、グーグル、セールスフォース・ドットコムなどのインターネット企業が、20世紀最後の繁栄企業として生み出され、それぞれの持ち場を考えながら切磋琢磨(せっさたくま)を始めた。
インターネットによって人と人がいつでもどこでもつながるようになると、SNSなどに代表されるコミュニケーションネットワークテクノロジーの時代がやってくる。いわゆるナレッジ(知識)がベースになると言われていた当時は、各人の思考をいかにコミュニケートさせ、新たなアイデアを生み出すかに焦点が置かれていた。こうした考え方が、コミュニケーションネットワークテクノロジーの基礎になっていき、プラットフォームが構築されていった。
やがて、インターネット上のコミュニケーションが活発になってくると、今度はアクセラレーター(起業支援)が登場する。2000年代に入ると、もはやインターネットだけの閉じた空間ではなく、リアルな空間で密な交流を深め、イノベーションを圧倒的に加速させる手法として、アクセラレーションプログラムがはやり始める。
こうして、斬新なアイデアを持つスタートアップに、アクセラレーションによる知恵と技術が組み合わさることによって、連鎖反応が起こり、さらなるイノベーションが加速するインフラが整っていった。
当時のスタートアップはインターネット上に構築されるインフラビジネスが多い。そのため、アクセラレーションプログラムはインターネットビジネスを手がけるスタートアップを支援するイメージが強い。
しかし、根本にある思想はアイデアと知恵や技術の掛け合わせによるイノベーションの加速化だ。すでに近年のYコンビネーターは量子コンピューターのハードウエアに投資するなど、インターネットビジネス系ではないスタートアップへの投資を増やしている。
さらに、Yコンビネーターの投資先におけるディープテックベンチャーの割合が増えていることにも注目しておきたい。彼らが価値を置くのは新しいイノベーションそのものであり、ライトテックかディープテックか、という区別をしていないのだ。
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