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 ディープテックの先を見据えていく上で注意したいのは、米西海岸や欧州、そして日本と東南アジアには、それぞれに異なる時間軸があることだ。

 例えば米国にライドシェアサービス「Uber」が登場した後、マレーシアのスタートアップによって「Grab」が登場した。ビジネスモデルは、インターネットの情報伝達の速さによってすぐにでもトレースできる。

 しかし、Grabはただそのまままねをしているのではなく、彼らは自分たちが抱える地域のディープイシューに組み合わせ、米国とは全く異なる時間軸によって、独自の進化をしている。例えば、Grabには渋滞の多い東南アジアならではともいえる、バイクタクシーの配車サービスもある。

 一見、他国のサービスを模倣したように見えても、トレース元とは別の時間軸によって、時空を超えた進化を遂げているのだ。

 このような国ごとの進化をある程度予測するためには、欧米とアジアの横軸と、高い変化の受容性を持つ米西海岸や東南アジア、一方で変化に対する受容性が低い英国や日本を縦軸に、4D(4面)に分け、それぞれの知識と研究の進化を面ごとに捉え、思考する必要がある(4D思考)。

世界の知識と研究を面で捉える
世界の知識と研究を面で捉える
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 上の図に示した通り、シーズ発掘を進める米西海岸や英国でもそれぞれが持つ知識と研究のベクトルは異なる。同時にシンガポールを中心とした東南アジアの、ディープイシューを前提とした独自の進化、日本特有のエコシステム、これら4つの時間軸を観測し続けることによって、いつ何が起こるかを予測していく。

 今後のディープテックの発展を見据えていく上で、こういった多面的な捉え方は欠かすことのできない考え方になっていくだろう。

均質化が進んだシリコンバレー

 ここからは、ディープテックにつながるテクノロジーイノベーションの歴史をひもといていく。

 歴史の舞台はシリコンバレーだ。まずは歴史について説明する前に、そもそも米国においてシリコンバレーが非常に特殊な場所であることを認識しておきたい。

 シリコンバレーには、世界でも有数の企業たちが本社を構える。年々、ものすごい速度で巨額の資金が循環している特異点なのだ。

 そもそも西海岸のテクノロジー産業の歴史は、成り立ちからして特殊である。例えば、映画産業で著名なハリウッドは、そもそも東海岸で発明されたエジソンの映写機を、彼の特許や訴訟から逃れて使い、自由な映画製作を行うための場所として始まった経緯がある。つまり、西海岸には東海岸のエスタブリッシュメントに対するクリエーターたちによるカウンターカルチャー的な成り立ちがあるのだ。

 そのため、西海岸にはオープンでイノベーティブな知識研究経済圏としての風土がある。そこで生まれたのがシリコンバレーだ。