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 ディープテックは、米シリコンバレーで始まったテクノロジーイノベーションの歴史の流れの中に位置付けることができる。ここからは、ハイテクやインターネットなどのイノベーション史を追いながら、ディープテックの成り立ちまでを紹介する。

 さらに、シリコンバレーの現状や、今後の日本のあるべき立ち位置についてもあらかじめ押さえておこう。

 歴史や地域ごとの現状を追って見ていくごとに、ディープテックが起こっているのは決して突然変異的な偶然ではないことが分かる。スタートアップの流れをくんだ必然であり、あらゆる技術と知恵、タイミングが重なることで、ホットスポットになっていることが分かるだろう。

日本は知識製造拠点として好立地

 アジア全体の人口はすでに40億人に達しており、これからさらに人口ボーナス期に突入していく。すでにシンガポールや東南アジア諸国連合(ASEAN)の都心部は、日本と変わらない生活水準に達している。国別の平均年収だけで見ると、例えばフィリピンは日本の6分の1ほどだが、都心部では余暇にお金をかけるくらいの余裕が出てきている。

 2011~2013年、東南アジアを次のマーケットに据え、日本を含む諸外国のベンチャーの進出が集中した時期があった。しかし、当時はまだ収益化に苦しみ、そのほとんどが今では撤退してしまっている。だが、その後、環境が激変した。

 例えば、東南アジアではスマホのデータ通信料金が日本よりはるかに低価格で、1000円で20ギガバイトを購入できる。おまけにほとんどのカフェには無料のWi-Fiが設置されている。2世代前の中古のiPhoneを1万円以下で手に入れられるため安価で十分な機能を使える、といった具合だ。

 日本を含む先進国では、インターネットは固定回線の利用がまずあり、その後、無線(ワイヤレス)へとシフトしている。だが、東南アジアでのインターネット普及は、初めからワイヤレス。いまさら各家庭にインターネットの固定回線をつなぐ必要がない。

 段階的な進化を踏まず、一気に最先端の技術に到達することをカエル跳びになぞらえて「リープフロッグ現象」と呼ぶが、東南アジアはまさにこれだ。インフラ整備が進んでいなかった分、他国がたどったフェーズを一気に飛ばして進化できるポテンシャルを持っている。この現状を受けて、これから日本として考えるべきことは何か。まずは地理的条件から整理してみよう。

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 上の図を見ていただきたい。米国や英国は、技術などシーズ発掘を得意とする地域だ。一方で、東南アジアには、社会課題を数多く抱えているという点で、ニーズを盛んに発掘できる土壌がある。

 太平洋を中心に見ると日本は地理的に、米国と英国のほぼ中間にあり、東南アジアからもほど近い。つまり日本は、ニーズ発掘地域である東南アジアとともに課題解決のために知識のハブ・集約点になり、新たな仕組みをつくり出し、実装までの一連を行う「知識製造」を担うポテンシャルがある。加えて、欧米圏からのシーズを東南アジアに導入していく上で、補助的な立ち位置にもいるのだ。

 この地理的条件に、日本に好機をもたらす理由がある。そもそも東南アジアのニーズは、現地に行かなければ発掘することができない。なぜなら、彼らは母国語でクローズドなやり取りをしているために、インターネットには情報が上がってこないのだ。