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 ディープテックの領域において日本企業が活躍する類型を考えると、大きく3つあるといえる。

 1つは、エマージングマーケット(新興市場)においてディープイシューを解決しようとする人々に対し、スケールアップ(事業を拡大)させる役割だ。2つめは、優れた特性を持つプロダクトを作り出すテクノロジーを持ち得ているにもかかわらず、時代の変遷とともにビジネスの形態が変化し、輝けていないテクノロジーをエマージングマーケットのフィールドで再び生かすという方法だ。3つめは、日本が抱えるディープイシューを解決しようとしているスタートアップ企業が、そのままエマージングマーケットに飛び込んでいくパターンだ。

 いずれにせよ、喫緊の社会的課題を解決しようとしているエマージングマーケットでのディープテックベンチャーに対し、大企業であれ、中小企業であれ、スタートアップ企業であれ、日本企業が活躍できる余地は大きい。

 ただし、ディープテックには課題もある。短期間での投資の回収が難しい点だ。特にベンチャーキャピタル(VC)などが扱うリスクマネーは、これまでディープテックのように長期的な投資が必要な領域を避ける風潮が強かった。産業として確立できたときのリターンはとてつもなく大きいものの、近視眼的な意見もいまだ根強い。

 こうしたトレンドは主に欧米からもたらされており、極めて短期間でスケールする事業に投資が集まってしまう。だが、平成元年(1989年)と令和元年(2019年)の世界の株式時価総額ランキングを見比べると、1989年には上位50社のうち日本企業が32社を占めていたにもかかわらず、2019年には上位50社に名を連ねているのは35位につけたトヨタ自動車の1社に激減している。

 今後30年を考えると、同じ土俵で戦っていてはとうてい日本企業は再浮上できない。後追いでは追いつくことすらできないだろう。ディープテックの領域では、日本企業が持つ眠れる技術が生かされ、他国にはない優位性を発揮できる可能性を秘めている。だからこそ、日本企業はディープテックに今、注目すべきだといえる。

 では、ディープテックにはどのような領域が存在するのだろうか。

 基本的にはテクノロジーと分野に大きく分かれる。テクノロジーは、AI(人工知能)/ビッグデータ、バイオ/マテリアル、ロボティクス、エレクトロニクス、センサー/IoT(インターネット・オブ・シングズ)などだ。

 一方、分野はアグリ(農業)/フード(食料)、エコ(環境)/エネルギー、ヘルスケア(健康)、メディカル(医療)、マリン(海洋)/スペース(宇宙)といった領域だ。この掛け合わせによって、ディープテックのエリアは多様に広がる。

 ここで重要なのは「どういった課題を解決するのか」を起点としている点だ。単なるテクノロジーと分野の掛け合わせではなく、課題解決のために複数の異なるテクノロジーを掛け合わせていくのがディープテックといえる。

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