新型コロナウイルス感染症の世界的流行、ウクライナにおける戦争、そして現在進行中の気象変動がもたらす危機は、企業がこうしたグローバルな課題に取り組む上で中心的役割を担うことができることを明らかにした。企業は、経済だけでなく、人々や地球のために、社会問題や環境問題の解決に向けて一段と力を入れる必要がある。

企業活動のインパクト、評価方法はまだ発展途上(写真=Shutterstock)
企業活動のインパクト、評価方法はまだ発展途上(写真=Shutterstock)

 本稿では、企業の社会的および持続的なパフォーマンスを、社内外の両面で評価するためのより広範で効率的な新しいフレームワークを提案したい。

 しかし現状では、企業がより環境・社会貢献活動に積極的になるためのインセンティブである株主の影響力は、企業の社会的・環境的パフォーマンスを評価するための既存のアプローチにより制限されている。一般的なフレームワークはあまりにも狭く、主要なステークホルダーの懸念に十分な対処ができていない。

 環境 (E)・社会 (S)・ガバナンス (G)のESG評価は、労働関係やサプライチェーン(供給網)の持続可能性など企業内部の業務に焦点を当てているが、企業の製品やサービスが企業外のステークホルダー(利害関係者)に与える影響については十分に考慮していない。一方、インパクト投資は、製品やサービスが貧困層のニーズに応えているかどうかといった、外部の問題に着目しているが、従業員への待遇など企業内の要素を見過ごしている。

 実際には、企業が社会や環境に与える影響は様々な面で認められる。例えば、米テスラは電気自動車を製造し、ライフサイクル全体で温暖化ガス排出量を大幅に削減しているが、同社の労働慣行は疑問視されている。インパクト投資の観点からは高評価を得られるかもしれないが、ESGの観点からは低評価となり、いずれの枠組みも全体像を把握することはできない。

 その結果、どちらのアプローチにも不満が募っている。テスラが最近、米S&P500種株価指数のESGインデックス採用銘柄から除外されたことで、CEO(最高経営責任者)のイーロン・マスクはESG評価を「とんでもない詐欺」と言った。インパクト投資に対する批判により、一部の大手資産運用会社はインパクトファンドの表現を抑え、リブランドすることを余儀なくされた。

 今こそ、インパクトを評価するための統合的なフレームワーク、つまり企業の社会的・環境的パフォーマンスの外部的側面と内部的側面の両方を考慮したフレームワークが必要である。そうしてこそ、経営者や投資家は正確な評価ができ、複雑なグローバル課題に取り組むよう企業に影響を与えることができる。

インパクトへの統合的アプローチ

 我々は数十年にわたり社会的・環境的に持続的なビジネスの指導と研究をしてきた。その経験をもとに、企業のインパクトパフォーマンスを評価し、ベンチマークを置く包括的なアプローチを提供している。これは企業が社会と環境に変化をもたらすために用いることができる4つの手段に基づいている。各手段それぞれ特徴はあるものの、真の価値は4つ全てを考慮することで生まれる。企業がインパクトを与える全ての方法を把握することで、我々のフレームワークは資本の流れを持続可能なビジネスへと導くことに役立つだろう。

 この包括的なフレームワークを開発するために、我々はまずインパクトの意味について共通の理解を持つことから始めた。インパクト・マネジメント・プロジェクト(IMP)では、インパクトを「組織によってもたらされる結果の変化。 インパクトには <正><負><予期されたもの><予期されないもの> が含まれる」と定義している。

 インパクトを管理するには、人と地球に与えるプラスとマイナスの影響を特定し、プラスを増やしてマイナスを減らさなくてはならない。企業にとって、取り組みが人々の生活や地球の健康の向上につながって初めてインパクトをもたらすことができる。

 どのような成果をインパクトとして見なせるのか。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」には、健康とウェルビーイング、高い教育、男女平等、清潔な水と衛生、安価でクリーンなエネルギー、適切な労働と経済成長などの包括的な目標が掲げられており、指針として使用することができる。