米ニューヨーク・タイムズのビジネス記者デイビッド・ゲレスによる近刊は、2世代にわたる株主資本主義の責任を故ジャック・ウェルチに押し付けている残念な本である。ウェルチは本当にそれほどの悪なのだろうか。単にミルトン・フリードマンやロナルド・レーガンの片棒を担いだだけなのではないかとレビューの筆者、セオドア・キンニは評している。さらにゲレスは、より大きな構造的、社会的圧力を無視している。

ジャック・ウェルチは資本主義を壊したのか(写真:AP/アフロ)
ジャック・ウェルチは資本主義を壊したのか(写真:AP/アフロ)

 「世界の歴史とは、まさに偉人伝である」と19世紀のスコットランドの歴史家トーマス・カーライルは述べている。ニューヨーク・タイムズ紙のビジネス記者デイビット・ゲレスは、著書『The Man Who Broke Capitalism(資本主義を壊した男)』の中で、リーダーシップに関する古臭い「偉人」論を逆手に取ってよみがえらせようとしている。

 著者は、1999年にビジネス雑誌フォーチュンが「20世紀最高の経営者」に選んだ米ゼネラル・エレクトリック(GE)CEO(最高経営責任者)のジャック・ウェルチ(2020年に死去)を、株主資本主義の暴走を引き起こし、数々の経済的困難を生み出した悪の首謀者と非難する。しかしゲレスはその根本的な原因にはほとんど目を向けていない。

 ウェルチがGEのCEOに就任した81年は、米国が、その経済史において決して豊かとは言えない時代だった。第2次世界大戦後の好景気が終わりつつある時期で、米国の業界最大手企業は自身の重さで身動きできずに沈み、海外企業、特に日本とドイツの企業が米国の消費者市場に超高速スピードで市場に進出してきた。当時、米国を代表する企業であったGEも低成長で勢いを失っていた。

 80年代から90年代にビジネスに携わってきた人であれば、ウェルチがGEに在職していた頃についての、ゲレスの話には聞き覚えがあるだろう。「ニュートロン・ジャック」と呼ばれたウェルチは毎年実施する従業員ランキングで下位10%だった者を解雇し、従業員数を削減した。

 また、事業部門は、その市場で1位または2位にならなければ切り捨てられた。一方、ウェルチは、金融サービスやメディアといった新しい成長機会を追い求めた結果、GEキャピタルだけで利益の半分以上を稼ぎ出すようになった。

『資本主義を壊した男:ジャック・ウェルチはいかに母国を焼き尽くし、米国企業の魂を潰したか――その遺産からの脱却』
『資本主義を壊した男:ジャック・ウェルチはいかに母国を焼き尽くし、米国企業の魂を潰したか――その遺産からの脱却』
著者:デイビッド・ゲレス(サイモン&シュスター, 2022)

 その結果はどうだったか?「ウェルチの在任中、GEは年率約21%の株価上昇を記録し、歴史的な強気相場にあったにもかかわらずS&P500をはるかに凌駕(りょうが)していた」とゲレスは回想している。「ウェルチが就任した時、GEは140億ドルの企業価値があった。20年後、同社は6000億ドルの価値となり、世界で最も価値のある企業となった」

 この驚異的な業績により、当時、ジャック・ウェルチは伝説的な存在となった。ウェルチがGEで過ごした晩年には、年間8000本ものウェルチに関する記事が(米国で)掲載され、「そのほとんどが、ウェルチを称賛する内容だった」とゲレスは述べている。米国のあらゆる大企業は彼の弟子をCEOに迎えようと競った。

 これにより利益を得た企業もあるが、そうでないところも多い。一方、GEはウェルチを世界で最も裕福な人物の1人に仕立て上げた。「2000年、ウェルチが最後の年に受け取った報酬は1億2250万ドルに達していた」「配当重視のキャリアが実を結んだのだ。最終的にウェルチは2100万株という巨額のGE株を保有し、その価値はピーク時でおよそ10億ドルにもなった」とゲレスは述べている。

「黒魔術的なウェルチズム」

 こうした称賛とは異なり、ゲレスは本書でウェルチによる「負の外部性」(経済学の用語で、ある施策を取ったことによる負の副次効果)に強いフォーカスを当てた。彼はジャック・ウェルチの企業経営へのアプローチは、人員削減や合併・買収取引、金融化という「黒魔術」に依存していたと論じている。これは、ウェルチが引退した10年後のサブプライムローン危機が世界経済を崩壊させた時、危うく会社を破壊させかねない要因となった。ゲレスはこの(アプローチの)3要素をウェルチズムと名付けている。