企業の研究開発(R&D)活動が中央集約型へと移行している世界の傾向に反して、中国で事業展開する企業は顧客、競合他社、そして最前線の従業員を使って多くのイノベーション(技術革新)を生み出している。なぜ中国だけイノベーションを生み出す仕組みが異なるのか。その背景を探る。

 米ニューヨークや英ロンドン、東京の店舗で売られているフィリップス(オランダのヘルスケア大手)の電気シェーバーは、どれも似ているように見える。しかし中国では、上海市でも山東省煙台市のような小さな都市であっても、他の国とは全く異なる製品が陳列されている。フィリップスの製品は現地のイノベーションから生まれ、中国の消費者向けにカスタマイズされているのだ。

 フィリップスのような多国籍企業が、自社の製品に手を加えて大規模な市場のニーズに応えようとするのは不思議なことではない。同社のある幹部が言うように「中国では(北京、上海などより規模が小さい)準大都市(2線都市、2級都市などと呼ばれる)であっても、その市場は欧州の多くの国々よりも規模が大きいかもしれない」からだ。

 ただし、驚くべきことに、フィリップスは中国以外の主要国ではこのような市場特有のイノベーションを生み出す必要性を感じておらず、こうした手法を中国でのみ採用している。なぜ中国市場で戦うには、他の市場で通用する手法とは全く異なる仕組みが必要なのか。中国市場はどんな特異性を持っているのか。

 我々は3年間にわたり、企業のイノベーションに関する2つの大規模な調査を実施した。1つ目は、先進国を中心とした8カ国におけるイノベーションの実践を調査したものだ。もう1つは、中国におけるイノベーションの実践に注目したもので、国内・外資系企業の両方を対象にした。

2021年に中国・海南島で開かれた中国国際消費品博覧会。中国では市場主導型のイノベーションが活発だ(写真:新華社/アフロ)
2021年に中国・海南島で開かれた中国国際消費品博覧会。中国では市場主導型のイノベーションが活発だ(写真:新華社/アフロ)

顧客に近いところでイノベーション

 調査から分かったのは、他の地域では企業は似たような手法でイノベーションを生み出していた一方、中国におけるイノベーションの在り方は、国内企業であれ外資系企業であれ、他地域とは異なるということだった。

 背景には、中国では急速な経済成長によって多くの産業で巨大な数の新規顧客が生まれ、デジタルプラットフォームの拡大といったデジタルインフラの成長がこうした顧客へのアクセスを可能にしていることがある。

 我々の調査によると、中国以外の国で大企業の多くはイノベーションを調達する手法へと移行しつつある。

 社内ではイノベーションの集中化が進んでいる。社内に研究開発部門を持たない企業はその構築を進めている。米シリコンバレーに多く見られるような、集中管理されたイノベーションラボを設置し、豊かなイノベーションのエコシステム(生態系)を構築しようとするケースも増えている。その一方で、個別の事業部にイノベーションを求める意欲は減っており、個々の部門からは重要なイノベーションが生まれにくくなっている。

 社外に目を向けると、企業はデジタル技術の専門知識を得るために外部との連携を急速に拡大している。クラウドソーシングや大学、スタートアップ、第三者の専門家などと協働する企業も増えている。一方で、顧客やサプライヤーといった外部リソースの重要性は低下している。

 一方、中国で確認されたイノベーションの傾向は大きく異なっている。より市場主導型のイノベーションを推進するため、顧客により近い場所でアイデアを生み出そうとする傾向を映し出している。

次ページ 中国流イノベーションの3要素