人権問題、環境問題、汚職防止……。ますます複雑になるビジネスの倫理的な課題に対応するために、企業はコンプライアンス(法令順守)とESG(環境・社会・企業統治)を全体的にとらえた戦略的アプローチを検討する必要がある。先進企業の取り組みを探る。

「誠実さ」も戦略だ(写真=PIXTA)
「誠実さ」も戦略だ(写真=PIXTA)

 戦略的優位の源泉であるにも関わらず、ESG(環境・社会・統治)の「G」、つまりガバナンス(統治)は、長らく環境とサステナビリティー(持続可能性)の議論に比べてあまり注目されてこなかった。多くの企業は、ガバナンスを単に問題を起こさないための手段として捉えている。しかし、適切なコーポレート・ガバナンス(企業統治)は、企業パフォーマンスを高めることにつながる。

 そしてこのアイデアを実現するため、倫理的で責任のあるビジネスを目指した全社的な取り組みを進める企業が増えつつある。この活動には、肝となるインテグリティー(誠実さ)部門を横断的に連携・調整することや、既成概念にとらわれないこと、倫理的行動とリスク管理、そして価値の創造を総合的に考えることが含まれている。

 筆者らは、このアプローチの主要な課題と成功要因を掘り下げるために、20社以上の大企業と多国籍機関におけるリーダーにインタビューを実施した。インタビューでは、リスクと機会の双方に対する戦略的な対応として、ビジネスインテグリティー(ビジネスの誠実さ)に投資するために実行した様々な手法を取材した。

 調査では、世界経済フォーラム(WEF)による「透明性と腐敗防止に関するグローバル未来会議」と、G20(20カ国・地域)の企業関係者が率いるBusiness 20(B20)が取り組んだインテグリティーとコンプライアンスに関する複数のタスクフォースから、業界を超えたベスト・プラクティス(優良事例)の情報を収集した。

 本調査では、「変化の原動力としてのチーフ・インテグリティー・オフィサー(最高誠実責任者)」といった新たな役割が示すように、独立した自律的なリーダーシップの存在が一歩踏み出す上で重要な役割を果たすことを明らかにした。ただし、本調査の結果は、単にこのような経営幹部レベルの役割を設けるだけでは不十分であることも示している。

 現在の極めて複雑な倫理的課題に対応するには、企業が社内に立ちはだかる壁を打ち壊し、戦略にふさわしい形に整え、コラボレーションを生み出し、インテグリティーの文化を築くことが求められる。本論文では、先進的に取り組む企業がどのようにしてこの包括的なアプローチを実施しているのかについて探る。

より「戦略的な誠実さ」に対するアプローチ

 先進的な企業はエシカル(倫理的)なビジネスに対して、より戦略的なアプローチをとっていることが、経営陣へのインタビューで分かった共通点だ。戦略的なアプローチをとることで、ビジネスにおいて見逃している点を特定し、偽善者に陥ることが避けやすくなる。

 例えば、サステナビリティーの履行責任と(ロビー活動などの)政治的な支出との間に整合性を求める機関投資家の声が高まっている。また、ゼロ・トレランス(全く容認しない姿勢)の反汚職プログラムは、特に新興市場における売り上げと成長目標などのインセンティブ設計に目を向けない限り、効果を発揮しない状況だ。