価値観に基づいて存在意義(パーパス)を明確にし、それに沿った戦略を追求する企業は、多くのメリットを享受することができる。本稿では、パーパスの明確な定義と発展に不可欠な要素を特定し、パーパス・ドリブンな組織であることでどのようなメリットが生まれるのか解説する。

(写真=PIXTA)
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 価値観に基づいて存在意義(パーパス)を明確にし、それに沿った戦略を追求する企業は、集中力や、従業員のエンゲージメント、顧客のロイヤルティーを向上させ、財務パフォーマンスを改善するなど、多くのメリットを享受することができる。

 現代では、従業員は企業が地域社会や環境に与える影響について強い関心を持つようになっている。従って、多くのビジネスリーダーたちが、行動規範(Purpose Statement)の策定を議題としていることは納得できる。しかし、企業が単に行動規範を企業サイトに掲載するだけであれば、大した効果を得られないだろう。

 パーパスが(行動を促す)直接の引き金にはなるわけではない。むしろ私たちの研究で確認されたように、パーパスは、組織全体で共有し行動を促すうえでの強固なコミットメント(約束事)として力を発揮する。組織のあるべき姿や役割、その役割になぜ意味や価値があるのかといったことは、すべて共有されたコミットメントから降りてくる。そして人々が仕事のやり方を変えようとするときにのみ、パーパスが組織でものを言う。

 パーパスが組織に変革をもたらし影響を長続きさせるため、組織の指導者はパーパスを明確に運用し、測定するために作り込まれた持続的なアプローチを必要とする。筆者らは過去の研究で、パーパスの明確な定義と発展に不可欠な要素を特定した。

 その後筆者らは一連のプロセスをフレームワーク化し、「パーパス・ストレングス・フレームワーク(Purpose Strength Framework)」と名付けた。このフレームワークを用いると、企業のパーパス活用がどのような行動変容をもたらすのか、パーパス・ドリブンな組織であることでどのようなメリットが生まれるのかが説明できる。

「パーパス」が価値を持つ理由

 パーパスは、組織のアイデンティティーや存在意義、ミッションについての共通理念を通じて人々を結びつける力がある。

 パーパスは、組織の歴史や存在意義、究極的な目的など組織のアイデンティティーから最も自然に導き出されるものを明らかにし、優先順位を明確にすることにより人々を鼓舞するものである。また、パーパスは従業員が仕事と感情や価値観を結びつけ、働くことの意義を見いだす手助けをする。

 つまり、仕事を「自分ごと化」することに役立つのだ。そして、組織が各ステークホルダーに対してどのように貢献しているかを明確にすることができる。このように、パーパスは企業に働く人々の日々の行動を導くものである。

 アイデンティティーと存在意義、ミッションについての共通の信念は、真正で、一貫性があり、誠実さを持ち合わせたパーパスから生まれる。真正であるためには、組織の人々が重要だと感じていることをパーパスが表現していなければならない。

 一貫性を持たせるためには、組織の日々の活動とパーパスが一致している必要がある。誠実さは、(真正で一貫性があるという)最初の2つの条件から生まれる。そして、たとえ業績が悪化しても、企業がそのパーパスに忠実であることにより成立する。私たちの調査では、この(真正で一貫性があり、誠実だという)3つの条件がすべて満たされている場合、従業員は顧客や同僚、組織のために自分の職務範囲を超えてサービスを提供する可能性が2倍高くなることが明らかになっている。