
人種やジェンダーの少数派にとって、職場などのプロフェッショナルな世界で居場所を見つけるのは困難を伴うことがある。リーダーに求められるのは、こうした人々の感情をくみ取り、多様性や包摂性を持ったチームを育てる姿勢だ。MITスローンマネジメントレビューが掲載したインタビュー記事から、革新的な組織をつくるカギとなる「インクルージョン(包摂性)」の視点について探る。
革新的なリーダーに求められる要素とは何だろうか? 私(注1)は日々チームを鼓舞し、イノベーション(革新)のきっかけを与える様々な企業のリーダーたちと対談してきた。作家、講演家、そしてダイバーシティー(多様性)・インクルージョン(包摂性)戦略のコンサルティングを手掛けるCandour(キャンダー)の最高経営責任者(CEO)を務めるルチカ・タルシャン氏は、イノベーティブなリーダーに共通する最大の要素はシンプルに「インクルージョン」だと考えている。
タルシャン氏はリーダーらに対し、ダイバーシティやインクルージョンを重視した実践的な行動をどのように導入し、効果を得るかを教えることにキャリアを捧(ささ)げてきた。5カ国に住み、4カ国で働いた経験を持つシンガポール人女性のタルシャン氏は、エクイティ(公平性)やインクルージョンといったトピックに貴重な視点をもたらしている。彼女の新著『Inclusion on Purpose(目的あるインルージョン)』 (The MIT Press, 2022)でも、こうした彼女の視点を知ることができる。
インタビューでは、タルシャン氏が自身の著作活動やコンサルの仕事を通じて、どのようにインクルージョンの視点をリーダーらに提供しようとしているか話を聞いた。
タルシャンさんは女性、特に有色人種の女性は度々、一種の逆説的な状況に陥ることがあるという見解を示されていますね。女性たちはより強く交渉することを求められる一方で、攻撃的になるべきではないと言われることもあるからです。また(女性に多いとされる)「インポスター症候群」(注2)は、既存構造の力学を無視しているにもかかわらず、女性たちが「自分はもっとこうあるべきだ」と自らを責める原因になっているとも述べられています。人々がこの矛盾に気付き、対処できるようにするため、どんな取り組みをされていますか?
女性をより苦しめる「インポスター症候群」
ルチカ・タルシャン氏(以下、タルシャン氏):インポスター症候群に対する考え方は、もう50年も(女性に対する)定説だとされてきました。研究では男性も、女性と同じようにインポスター症候群に陥る危険性があると示されているにもかかわらずです。別の研究では、有色人種は白人に比べ、より頻繁に同症候群を経験していることも示されていますが、こちらもあまり注目されませんでした。
女性、特に有色人種の女性が職場に居場所がないと感じているとき、文化的、社会的、環境的な意味合いを考慮せず、彼女がそのように感じるのは「自業自得だ」とすぐに責めてしまうと、その対話は繊細さに欠けるものにしかなりません。
私自身も、こうした既存のジェンダーの枠組みの中で考えてしまう習慣があります。女性が職場で、あるいは私との対話の中でこうしたジェンダーに基づく既存の考え方と対峙するとき、今でも私は自分自身がジェンダーの図式にとらわれていることに気付き、「なぜ私は彼女が『攻撃的だ』、または『(人に)好かれないタイプだ』とすぐ思ったのだろう?」と自問することがあります。
Powered by リゾーム?