「大企業たちの独占により、新興企業に経営資源が行き届かない」――。データ時代の到来とともに、経済学者シュンペーターの悪夢が110年越しによみがえった。世界を変え得るデータを持つ企業は、現状ほんの一握りで、それが競争優位にもなっている。本稿では、IT業界を取り巻く「データ格差」に伴う弊害とその対策について、2人の専門家が深掘りしていく。

「創造的破壊」という言葉を生み出した経済学者ジョセフ・シュンペーターは、イノベーションについて深く悩んでいた。彼は経済成長の原動力として起業家精神を支持したが、小さなプレーヤーには画期的なアイデアを実現するために必要不可欠なリソース、すなわち資本が欠けていると考えた。しかし、1950年代以降、エンジェル投資家とベンチャーキャピタル(VC)の活発なエコシステム(生態系)が、世界を変えるアイデアを持つ新興企業に十分な資金をもたらしたために、彼の懸念は杞憂(きゆう)にすぎないとみなされた。
その後、データ時代の到来により、イノベーターが必要な経営資源を入手できなくなるのではないかというシュンペーターの懸念がよみがえった。イノベーションがデータドリブンになるにつれ、大手プラットフォーマーが収集した膨大なデータによって巨大テック企業がますます強力になる。そうなってしまえば、起業家や企業は新しいチャンスをつかむことが難しくなるだろう。イノベーションのエンジンをふかし続けるには、資本だけでなく、データへのアクセスも不可欠なのだ。
人工知能(AI)や機械学習といったデジタル技術を活用する多くのイノベーターにとって、優れたアイデアを実現可能な製品にするためには、関連するデータと組み合わせる必要がある。適切な学習データなくして、安全で信頼性の高い自動運転車やAIを用いた医療診断、予知保全システムを実現することはできない。
音声認識や画像認識、詐欺の検出、商品の推奨、タンパク質の立体構造解析などの活用事例を開発するには、大量のデータが必要である。優れたアイデアが、(米アップルの創業者)スティーブ・ジョブズが言うところの「宇宙をへこませられる」か、少なくとも成功する製品にさせられるかどうかは、ますますデータへのアクセスに左右されるようになっている。
データへのアクセスは平等ではない
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