日本の禅と新版画に共鳴したジョブズ

 スティーブ・ジョブズもフィル・ナイトも若い時に禅に出会い、禅から大きな影響を受けている。二人は、若い時に曹洞宗の僧侶・鈴木俊隆著の『禅マインド ビギナーズ・マインド』、哲学者オイゲン・ヘリゲル著の『弓と禅』に出会い、愛読書としていた。

スティーブ・ジョブズもフィル・ナイトも日本の禅から大きな影響を受けてきた(写真:SAND555UG/shutterstock.com)
スティーブ・ジョブズもフィル・ナイトも日本の禅から大きな影響を受けてきた(写真:SAND555UG/shutterstock.com)

 ナイキの共同創業者であるフィル・ナイトの自伝『SHOE DOG』の扉ページに引用されているのは、鈴木俊隆著『禅マインド ビギナーズ・マインド』の言葉だ。この自伝では、ヘリゲル著『弓と禅』の文章を繰り返し引用し、禅の精神について何度も言及している。

 また、アップル創業者のスティーブ・ジョブズは終生、禅と深くかかわり、禅僧の鈴木俊隆と知野(乙川)弘文を師と仰いでいた。彼はこう語っている。

「僕は禅に大きな影響を受けるようになった。日本の永平寺に行こうと考えたこともある」

 ジョブズの結婚式を執り行ったのは曹洞宗の僧侶・知野弘文だ。結婚式では、弘文が木魚を叩き、銅鑼(どら)を鳴らし、香を炊いてお経をあげた(アイザックソン著『スティーブ・ジョブズⅠ、Ⅱ』)。

 ジョブズに影響を与えたのは、禅だけではない。禅に触れる以前、10代の頃、親友の家で見た日本の新版画家、川瀬巴水(はすい)からも大きな影響を受けている(NHK NEWS WEB「スティーブ・ジョブズ 「美」の原点」)。

「巴水こそベストだ!」
「シンプルがいい。この美的センスが好きだ。この感性が好きだ」

 ジョブズは、巴水の美的センスに強く共鳴していた。彼は日本に来るたびに画廊を訪れ、巴水の新版画の購入を続けた。彼が好んだのは、無駄を省いた洗練された作品だ。

 ジョブズがマッキントッシュ・コンピュータを発表する2週間前には日本で巴水の作品4点を購入している。たびたび日本を訪れていたジョブズは、亡くなる半年前にも京都を訪ねている。亡くなる前の病床には、巴水の版画の額がかかっていたそうだ。

 ジョブズがつくったアップル製品が、ぎりぎりまでそぎ落としたミニマリズム的な美を追究するのも、ジョブズの厳しく絞り込んでいく集中力も、その原点は禅の精神や巴水の作品など日本的なものにあるのだろう。

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