静岡の小さな農業者集団であるサンファーマーズが開発した高糖度トマト「アメーラ」は、2019年からトマトの本場、スペイン・アンダルシア地方で現地生産を開始した。「こんなに甘いトマトは食べたことがない」と、その品質は高く評価され、スペインを代表する百貨店の野菜売り場では、現地の普通のトマトよりも10倍以上高い値段で売れている。なぜアメーラは、ヨーロッパ市場で受け入れられたのか。日本企業、とりわけ中小企業が、世界に通用するブランドをつくるには何をすべきなのか。静岡県立大学教授・岩崎邦彦氏による著書『世界で勝つブランドをつくる』(日本経済新聞出版)から一部を抜粋し、世界ブランド構築の秘訣を紹介する。

ミラノ万博への出展がきっかけ

 高糖度トマト「アメーラ」のヨーロッパでのブランドづくりのチャレンジのきっかけは、2015年にイタリアのミラノで開催されたミラノ国際博覧会(以下、ミラノ万博)だった。

 ミラノ万博のメインテーマは、「地球に食料を、生命にエネルギーを」。食をテーマとした世界初の万博だ。

 アメーラトマトの生産・販売を行っている農業者グループ、サンファーマーズは、ミラノ万博のイベントに出展、イタリア人にアメーラを食べてもらい、現地の消費者の言葉に耳を傾けた。

「こんなに甘いトマトは食べたことがない」
「甘味と酸味のバランスがよい。イタリアにもあれば」

 現地の消費者の意見だけではなく、食のプロの意見も重要だ。ミラノのレストランのオーナーシェフにアメーラを使った料理をつくってもらい、アドバイスをもらった。

「そのままで大変おいしく個性的な味わいだから、生で食べたい」
「皮が硬いが、そこに甘みがある」 「高級食材を扱うスーパーで販売したら」

 ペック、イータリーなどイタリアを代表する食品専門店に出向き、現地のトマトの状況を自分たちの目で把握した。

 イタリアに続き、スペインのトマト産地、フランスの種苗会社などを訪問。ヨーロッパ各地で実際にアメーラを食べてもらい、アメーラのブランド戦略や生産戦略をプレゼンテーションし、意見交換を行った。

 そこで、分かったことがある。

・欧州に、「高糖度トマト」や「グルメトマト」というカテゴリーはない
・欧州では、収穫量と生産性の追求によって、トマトの同質化が進んでいる
・欧州では、野菜をブランド化しようという発想がほとんどない

「ヨーロッパで、日本発トマトのブランドづくりにチャレンジしよう。可能性がある」
「ヨーロッパで、最高品質の高糖度トマトという新たなマーケットを創造しよう」

 アメーラのヨーロッパ進出が決まった瞬間だ。

次ページ 進出前に仮説を立て、現地を知る