危険な「足し算戦略」 

 もしも、スターバックスが、「足し算の発想」で、「コーヒー、ティー、スパイス」から「コーヒー、ティー、スパイス、ホットドッグ、ハンバーガー」と品ぞろえを増やしたとしたら強いブランドになっただろうか。

 アップルが、冷蔵庫も洗濯機もファックスも売る総合家電メーカーを志向したとしたら、ブランドになっただろうか。

 ブランドの失敗事例をみると、その多くが「足し算」だ。

 かつてアパレルのグローバルブランドが、洋服だけでなく、バスタオル、シーツ、トイレのスリッパ、ボールペンなどにブランドを拡張した結果、ブランドの輝きは失われた。

 ユニクロが、かつて野菜ビジネスに参入して、成功しなかったのも、足し算の発想だったからだろう。アパレル企業が、野菜を扱っても、消費者の共感は得にくい。

 かつて、ケンタッキーフライドチキンがビーフバーガー、ポークバーガーを発売し、うまくいかなかったのも「足し算」の発想だからだ。チキンにビーフ、ポークを足し算することによって、逆に、売上は引き算された。今は、ビーフバーガーも、チキンバーガーも扱っていない。

 日本の総合家電メーカーが、世界でのブランド力を下げたのも同様かもしれない。「総合(いろいろ)」だからである。「いろいろ」と聞いてイメージが浮かぶだろうか。「いろいろ」という色はない。

日本は、引き算の国

 日本はもともと「引き算」の国である。

 たとえば、日本の国旗を思い浮かべてみよう。世界一シンプルだ。白地に赤い丸が一つ。線も一本もないし、星も一つも描かれていない。究極の「引き算」である。

 ここで質問。

日本の国旗の赤の面積は、全体の何パーセントだろうか?

 人々に聞いてみると、多くの人が30~40%程度と回答する。実際は、赤の面積はわずか18.8%だ。全体の8割以上は白色である。日の丸は、我々に「引き算が力になること」や「余白の重要性」を教えてくれる(岩崎邦彦『引き算する勇気:会社を強くする逆転発想』)。

 簡素に美しさを見出す「禅」や「茶道」。四畳半の「茶室」や枯山水の「日本庭園」は何とシンプルだろう。自然を生かすシンプルな日本庭園は、自然に手を加え豪華さを演出する西洋庭園とは対照的である。

 わずか17文字からなる世界で一番短い文学「俳句」。余分なものを加えず、素材そのものを活かす「和食」など、いずれも引くことによって、人の「心」に訴えてくる。

 日本人は、昔から「足し算」ではなく、「引き算」に価値を見出してきた。「引く力」は、日本人が伝統的に持つ強みである。伝統の中にこそ、日本が世界でのブランドづくりに成功するカギがあるはずだ。

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