新型コロナウイルスの影響が長引き、世界のパワーバランスは大きく変化した。国家をも越えるパワーを持つテック企業が世界の地政学にも影響を及ぼし始めている。米中対立のはざまで日本の未来はどうなるのか。国際政治学者のイアン・ブレマー氏に聞いた。

(聞き手は ニューヨーク支局 池松 由香)

<span class="fontBold">イアン・ブレマー(Ian Bremmer)</span><br />米国際政治学者。1994年米スタンフォード大学で博士号を取得。25歳で同大学フーバー研究所の史上最年少研究員に。98年にシンクタンク、ユーラシアグループを設立。政府系機関や金融機関、多国籍企業など約300の顧客を抱える。(写真=Maki Suzuki)
イアン・ブレマー(Ian Bremmer)
米国際政治学者。1994年米スタンフォード大学で博士号を取得。25歳で同大学フーバー研究所の史上最年少研究員に。98年にシンクタンク、ユーラシアグループを設立。政府系機関や金融機関、多国籍企業など約300の顧客を抱える。(写真=Maki Suzuki)

2021年11月にシンガポールで開かれた経済のフォーラムでは、数多くの政治家や現役政府高官と会談したと聞きました。22年に向け、中国をはじめアジア経済はどのような方向に進むと感じましたか。

イアン・ブレマー氏(以下、ブレマー):アジア諸国からフォーラムに参加した人の多くが中国の今後の経済状況について楽観的な見方をしていました。これは悲観視する人が多い米国とは異なります。私自身はその中間。安定的だと見ています。

 中国は国内に数多くの火種を抱えています。恒大集団など不動産会社の経営問題に加え、供給不足やエネルギー価格の高騰、グローバル供給網の混乱もマイナス要因となっています。

 一方で、こうした問題への中国政府の対応は変わっていません。格差縮小に向けた「共同富裕」、国内消費と国際的な供給網の循環を促進する「双循環」の基本方針は同じです。

 国内テック企業へのIPO(新規株式公開)規制や私立の小中学校の公立化など、統制強化と受け取れる動きもありますが、いずれも平均的な国民の不公平感を無くし共産党への愛党精神を育むのが狙い。斬新的な取り組みなので大きな変化を感じていません。だから22年も状況は安定すると予想しています。

インフレは「一時的」?

21年は世界的な供給網の混乱が物資の流通を滞らせました。22年も続くのでしょうか。

(写真=Maki Suzuki)
(写真=Maki Suzuki)

ブレマー:インフレーションもそうですが、混乱の直接的な原因は、新型コロナウイルスが流行して都市封鎖した後、経済が復活したことで需要が急激に拡大したことにあります。

 供給網の逼迫で需要が供給を上回ったからインフレ傾向となった。また米国ではコロナ禍に仕事を失った人がより良い仕事への転向を考えたため、一部の業界で人手不足に陥った。ワーカーが労働環境の改善を求めた結果、賃金も上昇しています。

 ただ米政府による巨額の経済刺激策のおかげで大きな問題は起きていません。インフレや供給網の混乱はあくまで一時的なものです。22年になれば次第に「ノーマル」に近い状況に戻っていくでしょう。

新型コロナそのものの影響はどうでしょうか。

ブレマー:21年ほどの影響は出ないと考えています。もちろん、変異種で再び世界各国が都市封鎖に踏み切ることは考えられますが、ワクチンもあるのでそこまでいく可能性は低い。米国や日本、欧州などの先進国でこれまでのような大きな混乱が起こることはないと思います。

 ただ先進国以外では状況が全く変わってきます。例えばトルコではリラが暴落し、政府がそれでも金利を下げていることに国民から不満が噴出しています。同じようなことが他の裕福ではない国々で起こる可能性があります。政府が経済刺激策に巨額の資金を投じる余裕がないので都市封鎖もできずワクチンも十分ではない。世界における貧富の差はますます拡大していくと思います。

次ページ 誰も触れないGAFA