経営学などの「教科書」を活用する企業の強さに迫る本連載。第5回までは星野リゾートやYKK、スノーピークなどの企業の取り組みと複数の経営学者へのインタビューから、活用法を探ってきた。
第1回「星野リゾート代表『100%教科書通り』の経営が会社を強くする」
第2回「優れた経営者は“自分の業界以外”でも鋭く分析できるのはなぜ?」
第3回「YKK『ファスナー世界トップ』への躍進を支えたコトラーの教え」
第4回「入山章栄氏『経営に正解はない。優れた経営者は考え続けている』」
第5回「スノーピーク、ファンが熱狂する経営の裏側に『教科書』があった」
第6回はパソコン周辺機器大手エレコムを取り上げる。同社の葉田順治会長は「経営学オタク」を自任し、教科書の知識を実践につなげてきた。かつては直感による “有視界飛行”だったが、理論を取り入れた“計器飛行”に切り替え、事業を成長に導いた。

エレコムはパソコン周辺機器のさまざまなカテゴリーでシェア1位の製品を持つ。製品ごとの収益管理を徹底しており、権限委譲されたカテゴリーごとのチームが効率的な事業運営を進める。売上高は1080億円(2021年3月期)に達しており、さまざまな場面で生かす経営学の教科書が同社の強みにつながっている。

同社はパソコンラックから事業をスタートし、パソコン用のケーブルやマウス、キーボードなどで事業の基盤を固めた。売上高は順調に伸びているように見えたが「内実は直感経営の勢いだけで進んでいた。自分の見えるところだけを見る “有視界飛行”の経営だった」と同社の葉田順治会長は話す。メモリーやハードディスクなどの周辺機器にも進出した結果、パソコン業界の成長に合わせて売上高は230億円まで拡大。しかし、行きすぎた多角化に半導体メモリー価格の下落も重なり、1996年3月期決算で7億円の赤字に転落した。
業績の急速な悪化に対し、葉田氏が経営改革の柱に据えたのがマイケル・ポーター氏の書いた『競争の戦略』だった。同書は競争戦略を策定するためのフレームワークや「コストのリーダーシップ」「差別化」「集中」という3つの基本戦略などを扱っており、競争戦略の古典として知られている。
葉田氏は先輩経営者から「経営学を知っていると役立つ。教科書を読んだほうがいい」とアドバイスを受け、経営学の教科書を読み始めていた。赤字を前に「これまでのやり方ではいけない」と思った葉田氏はポーター氏の著書に活路を見いだそうと考えた。「書いてあることを隅から隅までその通りに実践しよう」と決意して、ポーター氏の教科書に沿って自社をじっくり見つめ直すことから始めた。
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