経営学などの「教科書」を活用する企業の強さに迫る本連載。第3回までは星野リゾートやYKKなどの企業の取り組みと経営学者へのインタビューから、活用法を探ってきた。
第1回「星野リゾート代表『100%教科書通り』の経営が会社を強くする」
第2回「優れた経営者は“自分の業界以外”でも鋭く分析できるのはなぜ?」
第3回「YKK『ファスナー世界一』への躍進を支えたコトラーの教え」
第4回では『世界標準の経営理論』の著者で、世界の最先端の経営学に詳しい早稲田大学の入山章栄教授に話を聞いた。どれだけ経営学が精緻化しても、最終的には経営者は打ち手を自ら考え抜かなければならない。入山教授は「経営に正解はない。経営学は考える枠組みの1つ」と強調する。

早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサーなどを経て、現職。主な著書に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)など
経営理論を学んだり、フレームワークを勉強したりしても、そこから経営の正解が得られるわけではありません。そもそもこれだけ変化の激しい時代なので「経営には正解がない」というのが私の考えです。それでもリーダーは「意思決定」はする必要があるため、考え続けなければならない。つまり、考え続けることこそが経営であり、私の知る優れた経営者はそのことをよく理解しています。経営理論やフレームワークを鵜呑みにする必要はなく、自分の力で考え続けることが何よりも大切です。
そして経営について考え続けるとき、経営学はビジネスパーソンが考えを整理してブラッシュアップしたり、物事の理解を深めたりするときのための「道具立て」にはなり得ます。経営の正解は誰にも分かりませんが、世界中の経営学者による科学的な研究によって、人間や組織がどんな行動原理で意思決定をして動いているかについて、メカニズムをある程度分かっているからです。
不確実性が高まり、皆が自分で考えなければならない時代に入ったにもかかわらず、そこには明確な指針がありません。経営学の理論やフレームワークはビジネスパーソンが自らの力で考え抜くときの思考の軸や整理の枠組みの1つにはなり得る、ということです。
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