「教科書通りの経営」と聞くと現実に即していない理想論の経営のようなイメージを持つ人も少なくないだろう。実際、経営学の教科書は“机上の空論”になりがちであまり役に立たないといった意見もしばしば耳にする。
だが、本当にそうだろうか。経営学の教科書は緻密な研究に基づいて書かれており、その内容は信頼度が高い。それをマネジメントに生かせば成功確率を上げる可能性も高まるはずだ。実は強い会社には「教科書」があるケースも目立つ。経営の羅針盤となり、それぞれの現場に即した形で活用すれば、競争力を持続的に高められるからだ。
もちろん教科書を「どう使えばいいか分からない」という声もあることだろう。まずは「教科書通り」の経営を実践するという星野リゾートの星野佳路代表の声に耳を傾けてみよう。

そもそも、なぜ経営学の教科書を実際の経営に生かそうと考えたのでしょうか。
星野佳路氏(以下、星野氏):私は経営職に就いた当初から自分が特別な資質を持っていると思っていませんし、自分の直感も信じていません。だからこそ、経営に科学を取り入れるべきだと考え、教科書を経営の根拠に置いています。自社の課題に合った教科書を選び、教科書に書かれている通りに経営してきました。
私が使うのは研究者が書いた教科書であり、いずれも企業の事例の積み上げから法則を導いています。その内容は例えば医学や化学と同じ科学の世界であり、正しさが証明されています。私は教科書を通して証明された法則を知り、それを経営に活用しているのです。
教科書を生かすメリットは具体的にどんな点にあるでしょうか。
星野氏:例えば、企業の戦略は効果を発揮するには時間がかかるため、その過程ではどうしても迷いが出てきます。経営を直感に頼っている場合、なかなか成果が上がらないと「戦略がよくないからではないか」と考え、別の戦略に変更したくなるのです。
一方、教科書通りの経営の場合、教科書の正しさは証明されているのですから、結果がすぐに出ないからといっても迷うことがありません。うまくいかないときに「戦略を変えよう」と考えるのではなく、私は「なぜ結果が出ないのだろうか」という形で思考が働きます。ここから微調整に入ったり、教科書通りにできてない部分があるのではないかと考えて確認したりしていきます。その結果、失敗のリスクを減らすことができます。
直感に頼った経営は何をどうすればできるようになるのか分からないため、学ぶことができません。経営者のセンスに依存した経営はサステナブル(持続可能)ではないと思います。教科書を使えば、特別な努力をしなくても教科書通りに実践することで、誰もが経営できるようになります。その違いは大きいと思います。
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