カスタムジャパン(大阪市)は、バイク部品をインターネット経由でバイクショップや整備工場などに卸販売し、急成長する。社長はクラブでDJだった村井基輝氏。膨大な経営書を読んできた村井氏は「9割は本の知識でここまで来た」と強調する。

村井氏は祖父が立ち上げ、父が引き継いだバイク部品の卸問屋の三代目として生まれ育った。クラブミュージック好きの村井氏はDJとして活動。「問屋はどこかかっこ悪い」という意識があり、やがて携帯電話の販売会社で働き始めた。
ビジネス書との接点はこのときに生まれた。携帯電話の販売事業が急成長する中、村井氏はあっという間に多くの部下を抱えるようになり、年上の部下もたくさんできた。どう付き合うか考えた村井氏はビジネス書を手当たり次第読んだ。「本で読んだ通りに伝えると、正論として受け入れられた。本の力はそれだけすごいのだから、自分で考えて話している場合ではない」と思うようになった。
その後、IT(情報通信)企業に入り、ベンチャーを大きくする経験を積んだ村井氏は、優秀な人物が寝る間も惜しんで懸命に取り組んでも、なかなか成果を上げられないビジネスの厳しい現実を知った。一方、父の会社では社員は毎日、定時で仕事を終えており、それでも「なんとなく」会社は回っていた。「問屋はどこかかっこ悪い」と思っていた村井氏は「あれで大丈夫ならば、やり方次第では家業はもっと成長できる可能性がある」と考えるようになった。インターネット販売が本格的に広がる時期であり、IT企業で働いた経験のある村井氏は、家業の部品卸でインターネットを活用した新しい事業を立ち上げようと思った。
2003年に村井氏が父の部品問屋に入ったとき、社員は5人であり、事業エリアは地元周辺に限られていた。全国を対象に部品をネットで卸販売する新事業の構想を父に話した。家業から事業への脱皮も考えたが、事業経験のある父をなかなか説得できない。何とかしようと考えた村井氏は、京セラ創業者の稲盛和夫氏が主催する「盛和塾」のメンバーとなり、稲盛氏の著書も多数読んだ。稲盛氏の考え方を生かして話すうちに、父は次第に村井氏の考えを理解するようになった。「本によって父にしっかり伝えられるようになったのが大きかった」と村井氏は話す。
この頃、熱心に読んだのが、米国の経営学者、マイケル・ポーター氏の『競争の戦略』だ。きっかけはある経営者のセミナーに参加したこと。この経営者が同書について話すのを聞き、「自分たちの業界でも使えるはずだ」と考えた。

特に参考になったのが、ポーター氏が提唱するフレームワークであるファイブフォース分析だ。業界内の基本的競争要因には「新規参入業者」「競争業者」「買い手」「売り手」「代替品」の5つがある。「それまで競争業者、買い手、売り手ばかり見ていたが、特に異業種からの参入という視点が非常に新鮮であり、参考になった」と村井氏は振り返る。当時インターネット上には卸の部品の通販がなかった。それでもファイブフォース分析を生かすことによって、パズルを作っていくように新規事業のアイデアがわいてきた。
ただ、最初からポーター氏の考えを深く理解できたわけではなかった。本を読んでもなかなか頭に入らず、つい眠くなることもあった。実際、『競争の戦略』は競争戦略の古典として知られるが、読んでみると「難しい」という声も少なくない。このため、村井氏はポーター氏の考えを分かりやすく解説している本を読むことから始めた。
それがグローバルタスクフォースによる『ポーター教授「競争の戦略」入門』だった。同書は「『競争の戦略』を読みこなすための徹底ガイド」を標榜しており、それぞれの項目について、オリジナルの事例も交えながら分かりやすく解説する。村井氏は同書をボロボロになるくらいまで読んだ。例えば「競争勝者の将来の目標を知る」という項目では、競争業者を分析するための細かなチェックリストがあり、村井氏はこれを参考にしながら、信用調査会社のデータを活用。美容系など異業種の卸業態について動向を分析し続けた。こうして通販ビジネスの構造が数字で見えてきたことが、カスタムジャパンの事業に役立った。

Powered by リゾーム?