
経営コンサルタントとして、20年間、日本企業のトランスフォーメーションの意思決定と実務を支援してきました。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)には約15年間所属していました。昨年、新しい事業モデルのベンチャーキャピタルを創業し、現在、スタートアップと事業会社の両方のイノベーションに取り組んでいます。
これまでの経験を振り返ると、日本企業で起きた様々な変化に気づくことが多々ありました。
いくつかの例を挙げましょう。
2010年ごろを節目として、「戦略」と「実行」の境界線がなくなりました。戦略を立てると同時にすぐに実行に移し、実行の結果を基に戦略を随時見直す。実行に必要なリソースをタイムリーに変更し、結果を受けてまたすぐに戦略を変えていく。経営が戦略と実行をリアルタイムで同期させていく時代になりました。経営の難易度が数段階上がり、ついていけない日本企業の生産性が停滞してしまうケースが増えています。
事業や会社の「強み」は何か? という議論は、2010年代中盤から、相対的に価値が落ちました。強みと呼ばれるものは、競争環境の構造自体が変わる中ですぐに通用しなくなり、簡単に競合他社に追い抜かれるようになったからです。
全く異なる着眼点やスピードで攻めてくる競争企業に対し、突如として太刀打ちできなくなる事態に陥りました。新興企業の破壊的イノベーションにより、業界全体の強みとずっと錯覚され続けてきたものが壊されつつあるためです。業界の雄が「これが弊社ならではの強みだ」と社内会議で悠長に議論している間に、いつのまにかシェアを奪われ、その新興企業に市場を再定義されてしまいます。
また、社内政治に専心し、内向型組織を生き抜いて幹部になった「通称エグゼクティブ」の悲哀もあります。我流で部下のマネジメントを試み、価値観が異なる若手社員の感覚が分からず、エンゲージメントまでも低下させる施策を乱発してしまうようになりました。「通称エグゼクティブ」は、自覚も罪の意識もないままチェンジモンスター(BCG, 2001)と化しました。過去の自分の成功体験を押し付けてもうまくいかず、こうなったら定年も近いし、なんとか逃げ切るか、と。
さらに、ここ数年間で日本企業にまん延し始めたのが「変革やるやる詐欺師」です。インターフェースは改革者っぽい。「今、変革できなければ我々の未来はない!自分がなんとしてでもやる!」と勢いが良く、周りから大きな期待を寄せられます。
しかし、実はデジタル時代にワークする具体的な方法論や技術や勇気を持ち合わせておらず、改革の指揮や実務ができません。それでも「なんとしてでもやる」を連呼し続け、でもやれない、の繰り返し。「あの人、変革やるやると言っていたけど、結局やれないじゃん」というもの。
これらは、この20年間に起きた変化のごく一部の例です。なぜ、このようなことが起きてきたのでしょうか。日本企業には、向上心や気合が足りなかったのでしょうか?
私は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代に適した変革の方法論、すなわち「型」がなかったからだと考えています。
日本企業は、決して潜在能力が低いわけではありません。大企業から零細企業まで、どの企業も大きなポテンシャルを秘めています。そのポテンシャルを開花させるためには、トランスフォーメーションが必須。そして、2030年代までを勝ち抜く、全く新しい事業や会社に転換させることが重要になるのです。
これが「真のDX」であり、その手法には「型」があります。「型」を実践すれば、「戦略」と「実行」は同期し、破壊的イノベーターと渡り合えるようになります。
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