デジタルソリューション事業の予算規模は、さらに縮小されました。同じ領域で、競合のベンチャー企業が良いプロダクトを上市し、どんどんシェアを拡大していきました。コア事業の収益が悪化し、社内の業務システム刷新のプロジェクトにも停止命令が出ました。デジタルソリューション事業の組織のモチベーションは下がり、人材流出が相次ぎました。Bさんも異動になりました。

 このままでは、会社は沈み行く泥舟です。

 そこで社長はこう言いました。「今こそ変革のときだ。DXで会社を生まれ変わらせなければ将来はない。C常務、デジタルとかAI(人工知能)とかを活用した革新的なビジネスモデルを真剣に考えてくれないか」

「循環参照」による失敗を免れるには

 X社の例は、領域や規模や順番が異なったとしても、多くの企業で類似の現象が起こっていると感じています。

 X社には、誰ひとりとして、悪意のある登場人物はいませんでした。皆が、それぞれの立場で、真剣でした。

 それでも、あらゆるDXテーマ、すなわち、役員間の平仄(ひょうそく)、DXのスケジュール、新たな事業モデルの将来性、社内システムの現代性、組織のデジタル能力が「相互依存」の関係にあり、各々(おのおの)の要素が各々の要素を互いに前提とする「循環参照」(数式において、いくつかの変数が互いの数値を参照することにより、無限ループに陥りエラーとなる状態)を起こしてしまったのです。

 とはいえ、あらゆるテーマが「相互依存」である関係性は変えられるものではありません。よって、あらゆるDXテーマを「包括的」に列挙し、全てを着実に推進し続け、「循環参照」を防ぐ必要があります。一部のテーマであっても、なおざり、またはおざなりにしたら、「循環参照」が生まれ、DXが頓挫するリスクが高まります。

 私が「包括的」なDXテーマの設定と推進が必要だと考える理由は、ここにあります。ある一部のテーマだけを試しに追ってみても、失敗するか、僅かな成功しか得られず、「真のDX」で事業や会社を生まれ変わらせることはできないと思うのです。

 私が取締役COO(最高執行責任者)を務めるOne Capitalでは、「One Capital-DX」と称してDXを5つの柱と48個のテーマに整理しています。これが、私が考える「包括的」なテーマ群です。第1回の最後にお伝えした、包括的なDXのテーマ(縦軸)とは、この48個のテーマのことを指しています。

 48個のテーマについては、本連載で、順次、テーマ別に「型」をお話ししていきたいと思います。今回は、上位構造の(柱1)から(柱5)までの5つの柱について、概要をお伝えします。

 (柱1)は「DXセットアップ」です。事業や会社が、いつ、どんな姿に生まれ変わりたいかを決めます。何があってもやり遂げられるよう、仕組み上の工夫とコミットメントを構築します。

 (柱2)は「DXMO(DX Management Office)」です。全社のDXの強力な事務局機能です。核となる精鋭チームが、DXの目標と施策と投資と進捗と課題を管理して、全社の問題解決を推進します。

 (柱3)は「攻めのDX」です。顧客に対して直接提供すべき価値を定義し、デジタルを活用した製品と接点に落とし込みます。新たな事業モデルに生まれ変わるための直接的なテーマ群です。

 (柱4)は「守りのDX」です。ITやデジタルのガバナンス・横串強化、コスト削減、セキュリティー、基幹・業務・情報システムの現代化を実現するテーマ群です。

 (柱5)は「DXのための企業改革」です。「攻めのDX」と「守りのDX」を進めていくために、それを支える組織能力・やる気・制度・仕組みを、勇気と思い切りをもって、抜本的に変革します。

 再度、強調したいのは、これらの全テーマを「包括的」に推進する必要があり、全テーマで速くて小さい成功を重ねていく必要があるということです。それができれば、「循環参照」による失敗を免れることができ、前進を続けることができます。

 これらのテーマ(縦軸)の変革を続け、事業や会社を生まれ変わらせるためには、10年間、15年間という、長い時間(横軸)がかかります。次回は、横軸の話をお伝えしたいと思います。

この記事はシリーズ「坂倉亘の「DX方法論のプレーブック」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。