普仏戦争の敗戦で、出生率回復に取り組んだフランス

 世界各国の出生率は、それぞれ特有の動きをしている。国によって出生率が大きく異なるのは、社会・経済・文化などの要素が関わっているとされるが、各国政府が人口問題にどのように取り組んできたかという、政策面の影響も大きい。

 例えば、フランスは1870年の普仏戦争でドイツ(プロイセン)に大敗した原因を人口規模や出生率の違いだと認識し、それ以降長きにわたって、家族手当の拡充などにより出生率回復に取り組み続け、ついに2008年に出生率を2.00まで回復させた。

 すべての国家と国民において、自らの国の人口をどう考え、人口問題にどのような基本政策で臨むかは最重要テーマである。それゆえに基本政策の決定に際しては、しばしば激しい議論が起き、国論が分裂することもある。政策によって、国の消長のみならず、民族の行方や地域の存続、さらには個人生活のあり方にまで大きな影響が及ぶのだから当然である。

人口減少を防ぐ重要性を主張したノーベル賞経済学者

 フランスと同様に出生率が高く、「勝ち組」とされるスウェーデンも、100年前に欧州の中で最低水準の出生率となり、大きな政策論争が巻き起こった。

 その時に国論をリードしたのが、後にノーベル経済学賞を受賞した経済学者のグンナー・ミュルダールである。彼は妻のアルヴァ(ノーベル平和賞受賞者)とともに、反産児制限を主張する人々には、出生率低下を個人のモラルの問題とするのは誤りであり、民主主義理念に基づき産児制限は認めるべきだと反論する一方で、同時に、福祉向上の観点から人口減少は歓迎すべきことだと主張する「新マルサス主義者」に対しても批判を行い、出産を奨励する必要性を訴えた。

 ミュルダールは、人口減少が続けば、いずれ消費や投資が減少し、最終的には失業や貧困が増加すること、そして出生率の低下に伴う高齢化の進展によって、労働意欲・労働生産性が低下し、広範な社会心理的停滞が引き起こされることを危惧したのである。

 このため、人口減少による困難な事態が顕在化する前に、それを避ける「予防的社会政策」を講じることが重要であり、その方策として、すべての子どもの出産・育児を国が支援する「普遍的福祉政策」を推進すべきである、と主張した。

 こうしたミュルダール夫妻の取り組みは、今日のスウェーデンの普遍主義的な家族政策の形成に大きく貢献した。

スウェーデンのミュルダール夫妻は出産を奨励する必要性を訴えた(写真:Prostock-studio/shutterstock.com)
スウェーデンのミュルダール夫妻は出産を奨励する必要性を訴えた(写真:Prostock-studio/shutterstock.com)

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