中国軍基地の目と鼻の先にある台湾の半導体拠点

 ここで同社の地理的な位置を確認しておきたい。

 本社と主要な工場はほぼすべて、台湾島の西岸、台北から鉄道で小1時間の新竹市に集結している。他のファウンドリーも軒を連ね、「アジアのシリコンバレー」とも呼ばれる半導体の一大拠点だ。

 その台湾経済の心臓部である新竹の目と鼻の先、海峡を隔ててわずか約250キロメートルの距離に、中国人民解放軍がいくつもの軍事拠点を構えている。福建省の寧徳には空軍の水門基地があり、超音速の最新戦闘機やミサイルが配備されているとみられる。

図表1 台湾が半導体サプライチェーンの要衝
図表1 台湾が半導体サプライチェーンの要衝
(出所)『2030 半導体の地政学』84ページ
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 入手可能な中国空軍の装備データを地図に照らして計算してみた。戦闘機がひとたび基地を飛び立てば、台湾の新竹までわずか5~7分だ。

 軍事面に限っていえば、中国がその気になれば台湾の半導体産業を丸ごと手中に収めることは難しくない。台湾海峡での武力衝突は考えにくいとはいえ、習近平政権には、香港で実力を行使し、民主化運動を抑え込んだ前歴がある。中国は台湾を自国の一部とみなしているから、その意味では香港と台湾は同じ位置づけである。

 新竹が万が一“陥落”すれば、世界のサプライチェーンは崩壊する。米国が台湾への関与を強めたのは、民主主義の陣営を守るためだけではない。半導体を守りたいのだ。



技術覇権を巡る壮大なゲーム
日本の半導体に未来はあるか

 米中対立の激化に伴い、戦略物資として価値がますます高まる半導体。政府が経済を管理する国家安全保障の論理と、市場競争に基づくグローバル企業の自由経済の論理が相克し、半導体を巡る国際情勢はますます不透明になっている。

 激変する世界の中で日本に再びチャンスは訪れるのか。30年以上にわたって国際報道に携わってきた日本経済新聞の記者が、技術覇権を巡る国家間のゲームを地政学的な視点で読み解き、日本の半導体の将来を展望。

太田泰彦(著) 日本経済新聞出版 1980円(税込み)


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