世界の経営学が注目する「センスメイキング理論」

入山:「センスメイキング」という概念は、世界の経営学・組織心理学において現在、極めて重要視されています。いまだ発展中の概念なので、定義も多様ですが、僕なりに説明するならば、その本質は「納得」であり、「腹落ち」です。

 つまり、「組織のメンバーや周囲のステークホルダーが、事象の意味について納得(腹落ち)し、それを集約させるプロセス」が、「センスメイキング」です。僕は、これこそが今の日本企業に最も欠けていて、最も必要なものだと思うのです。「会社のビジョンへの腹落ち」が、決定的に足りない気がする。これをベゾスの言葉で言い換えれば「長期思考(Long-term thinking)」となるのでしょう。

:そうですね。ベゾスは長期思考の重要性をしつこく強調していて、そのためには、短期的には「誤解されることを恐れない(Willing to be misunderstood)」のだ、とか、「大胆な賭け(Bold bet)」に出るんだと、社内外で語り続けています。

入山:ベゾスの「長期思考」というのは、僕の理解では10年の単位ですが、製造業中心の日本企業の場合は、もっと長くていいと僕は思っています。製造業だったら「20年、30年後」というくらいの「未来の方向感」について、組織全体として「腹落ち」するということが何より重要で、それを前提にして、何をどう変えていくかを考えるということでないと、日本企業の復権は難しい。

「本能に反する意思決定」が、イノベーションのカギ

:破壊的なイノベーションを起こすには「短期的には赤字でも、長期的には凄(すさ)まじく成長する」という事業に賭ける、ということが必要ですが、普通の経営者にはその選択肢はなかなか選べません。私自身、「おまえが選べるのか?」と問われれば、なかなか難しいというのは認めざるを得ない。

 なぜなら人間は本能的にリスクを回避したがる生き物で、未来に得られる価値より現在価値を重視します。つまり、破壊的イノベーションを起こすには、人間の本能に反する決断を下す必要があるのです。

 しかし、ベゾスやテスラのイーロン・マスクのような起業家は、人間の本能に反する選択ができていて、莫大なリターンを得ている。私がこの本を書きたいと思った理由の一つは、自分自身も含めて、普通の経営者や事業責任者が、不確実性の高い事業に賭けるハードルを下げたかったからです。「ベゾスやマスクは、こういうふうに考えて本能に反する意思決定をしているのですよ」ということを、細かく分析して提示できれば、それが再現可能になるのではないかと。

入山:実は、そこがまさに僕が谷さんに今日、ぜひうかがいたいと思ったところです。

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