大失敗を起点とする「ダブルダウン」戦略

 ファイアフォンは失敗しましたが、アマゾンでは、その後も、電子デバイスの開発が続けられました。その結果、ファイアフォンの失敗も教訓に、人工知能(AI)を活用したバーチャルアシスタント「アレクサ」を搭載したスマートスピーカー「エコー」が発売され、ヒットしました。

 こうして数多くの失敗から、数少ない成功が生まれたなら、その分野への投資を加速的に増やすというのが、アマゾンのやり方です。第1世代の「エコー」が成功を収めると、「エコードット」「エコーショー」「エコースポット」「エコースタジオ」「エコーオート」 など、後継機種を矢継ぎ早に市場導入していきました。うまくいきはじめたものに集中投資する「ダブルダウン」の典型例です。

 破壊的イノベーションと失敗のリスクは、切っても切り離すことのできない「双子(ツイン)」だと、ベゾスは表現しています。ベゾスが毎年、株主向けに発表している手紙、いわゆる「ベゾス・レター」の2015年版に、こんな記述があります。私なりに翻訳してみました。

 失敗と発明は切り離せない双子(twins)です。発明するためには実験しなければなりません。成功すると事前にわかっているなら、それは実験ではありません。ほとんどの大企業は発明という概念を受け入れはするものの、そこに到達するために必要な、失敗に終わる実験の連続に対しては寛容でありません
 10%の確率で100倍のリターンが期待できる賭けがあるなら、毎回、賭け続けなくてはなりません。しかし、賭ければ10回のうち9回は失敗なのです。

 ベゾスはこれと同様の発言を社内外で何度も繰り返しています。 それほどまでに、リスクを取ってイノベーション創出に挑むことを重要視しています。

 第3回で詳述したPR/FAQをはじめ、アマゾンには優れた企画を生む仕組みがあります。PR/FAQを基にチームで議論を尽くすことで、3~5年後という未来の「製品・サービス」と「ニーズ」の交点を探っていくと、「そこに顧客は必ずいる」という確信をメンバーは得ることができます。しかも、その製品・サービスを他社でなく、ほかでもないアマゾンが手掛けることで、顧客のメリットを最大化できるかどうかも判断します。それでもなお、現実が想定と異なり、失敗に終わる事業は多くあります。

 このリスクに、アマゾンはどう対処しているのでしょうか。

 新規事業を生み出すために「リスクを取る」というとき、そこには2つの側面があります。
 1つは、会社として、一定の損失を許容するという側面。
 もう1つは、新規事業の担当者となった社員個人の評価という側面です。

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