大失敗したアマゾン「ファイアフォン」

 企業が新規事業の立ち上げを試みるときに、大きな障害となるものの1つが、「リスクへの恐れ」です。

 すでにある市場を成長させていく、いわゆる「持続的イノベーション」であっても一定のリスクがありますが、まだ誰も見たことのない市場をゼロから創出しようという「破壊的イノベーション」にチャレンジすることには、常に大きなリスクが伴います。

 「破壊的イノベーション」が、まだ誰も見たことのない市場の創出である以上、事前の市場調査などで、その成否を予測することなどまず不可能です。トライした新規事業の多くは失敗に終わります。それでもトライし続けることにより、たった1つでも成功が得られれば、数々の失敗による損失を補ってあまりある成果が得られるというのが、破壊的イノベーションです。

 アマゾンはこれまでに、数々のイノベーションを連続して起こしてきましたが、その陰に、成功の数をはるかに上回る多くの失敗があることは、ベゾスも認めるところです。

2014年6月、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが大々的に発表した新製品「ファイアフォン」は大失敗に終わった(写真:ロイター/アフロ)
2014年6月、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが大々的に発表した新製品「ファイアフォン」は大失敗に終わった(写真:ロイター/アフロ)

 私がアマゾンに入った翌年の2014年、米国本社で世界各国から幹部クラスの社員が集まるリーダーシップミーティングがあり、私も参加しました。その打ち上げのパーティーの会場で、1人のシニア・ バイス・プレジデント(SVP)が発売したばかりの「ファイアフォン」 を見せてくれました。当時、話題になっていたアマゾン製のスマートフォンです。

 彼は、他社製のスマートフォンを取り出すと、そこからSIMカードを抜き出し、ファイアフォンに入れ替え、「これからは、このスマホを使うのだ!」と高々と掲げて、皆に見せました。

 私もそのとき、手に取って見せてもらいましたが、当時私が持っていたiPhone4よりも画面が縦に少し長く、3次元の画像表示や物体認識ができるという先進機能もついていて、「これはすごい。早く日本でもリリースされないか」と、ワクワクしたものです。しかし、結果的には米国での販売が伸びず、海外に展開する以前に米国で販売中止になりました。年間1億7800万ドル(約195億8000万円)もの償却を余儀なくされたといわれています。

 このファイアフォンの開発でも当然、PR/FAQ(アマゾン独自の企画書のフォーマット。詳細は第3回参照)が作成され、それを基にプロジェクトメンバーが、これならば顧客を満足させられるという自信が持てるまで、議論を尽くして世に問うたはずです。それでもなお、顧客が本当に受け入れてくれるかどうかは、最後までわかりません。どれほどの努力を尽くしても、破壊的イノベーションに絶対成功するという保証はないのです。

 アマゾンの凄みは、これだけ大きな失敗をしても、挑戦をやめずに続けることです。

<span class="fontBold">谷 敏行<br />たに・としゆき</span><br />東京工業大学工学部卒業後、エンジニアとしてソニー(現ソニーグループ)に入社。エレキ全盛期のソニーの「自由闊達にして愉快なる理想工場」の空気に触れながら、デジタルオーディオテープレコーダーなどの開発に携わる。米ニューヨーク大学経営大学院にて経営学修士号(MBA)取得。1992年にソニー退社後、米国西海岸でIT・エレクトロニクス関連企業のコンサルティングを手掛ける(米アーサー・ディ・リトルに在籍)。その後、米シスコシステムズにて事業開発部長など歴任。日本GE(現GEジャパン)に転じた後、執行役員、営業統括本部長、専務執行役員、事業開発本部長など歴任。2013年、アマゾンジャパン入社。エンターテイメントメディア事業本部長、アマゾンアドバタイジング・カントリーマネージャーなど歴任し、2019年退社。現在は、TRAIL INC.でマネージングディレクターを務めるほか、<a href="https://dayoneinnovation.com/" target="_blank">Day One Innovation</a>代表としてイノベーション創出伴走コンサルタントとしても活動。
谷 敏行
たに・としゆき

東京工業大学工学部卒業後、エンジニアとしてソニー(現ソニーグループ)に入社。エレキ全盛期のソニーの「自由闊達にして愉快なる理想工場」の空気に触れながら、デジタルオーディオテープレコーダーなどの開発に携わる。米ニューヨーク大学経営大学院にて経営学修士号(MBA)取得。1992年にソニー退社後、米国西海岸でIT・エレクトロニクス関連企業のコンサルティングを手掛ける(米アーサー・ディ・リトルに在籍)。その後、米シスコシステムズにて事業開発部長など歴任。日本GE(現GEジャパン)に転じた後、執行役員、営業統括本部長、専務執行役員、事業開発本部長など歴任。2013年、アマゾンジャパン入社。エンターテイメントメディア事業本部長、アマゾンアドバタイジング・カントリーマネージャーなど歴任し、2019年退社。現在は、TRAIL INC.でマネージングディレクターを務めるほか、Day One Innovation代表としてイノベーション創出伴走コンサルタントとしても活動。

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