アマゾン(米アマゾン・ドット・コム)という会社の本当の凄(すご)みは、「小売業の破壊力」ではなく「連続企業力」にある。すなわち、「組織的にイノベーションを起こし続ける仕組みを持っていること」に、アマゾンの強さがあるということを、お伝えしてきました。詳細は拙著『Amazon Mechanism(アマゾン・メカニズム)― イノベーション量産の方程式』を、ご参照いただければと思いますが、その全体像を最もシンプルな形式で表現した方程式を、再掲します。

アマゾンの「連続起業力」はいくつかの要素から構成されますが、その一つに、シリアルアントレプレナー(連続起業家)と呼ばれる人たちが、個人の脳内でやっていることを組織的に再現する仕組みがあります。これが方程式に【ベンチャー起業家の環境】として示した部分であり、「普通の社員を起業家集団に変える仕組み」と言い換えてもいいでしょう。私がソニー技術者として抱いた疑問に、アマゾンで一つの解を見出したところでもあります(前回参照)。
そのための代表的な仕組みとして、「PR/FAQ」というイノベーション提案フォーマットがあります。
「PR」とは「プレスリリース」のことであり、「FAQ」は「Frequently Asked Questions」の略で 「よくある質問」「想定問答」ということです。
「アマゾンの企画書」の特徴とは?
本来のプレスリリースやFAQは一般に、新サービス・新製品の開発が終了した後に、確定した情報に基づいて執筆されます。しかし、アマゾンではそれらを新サービス・新製品を企画する出発点としています。サービスや製品がまだ影も形もない段階で、最初に企画提案者が書くのが、PR/FAQです。
アマゾンのPR/FAQは、一般的なプレスリリースと異なり、自分たちがリリースした文章がそのまま新聞などのメディアに掲載されるという想定で書きます。あくまで社内検討用の資料なので、外部には一切公表しませんし、売りこむことを目的としているわけでもありません。サービスや製品を実力以上に魅力的に見せる努力もしません。ですから、表現や内容はかなり自由で、気楽に書けます。
実例を見ていただいたほうがわかりやすいと思うので、架空の製品について、アマゾン式のPR/FAQを書いてみました。

東京工業大学工学部卒業後、エンジニアとしてソニー(現ソニーグループ)に入社。エレキ全盛期のソニーの「自由闊達にして愉快なる理想工場」の空気に触れながら、デジタルオーディオテープレコーダーなどの開発に携わる。米ニューヨーク大学経営大学院にて経営学修士号(MBA)取得。1992年にソニー退社後、米国西海岸でIT・エレクトロニクス関連企業のコンサルティングを手掛ける(米アーサー・ディ・リトルに在籍)。その後、米シスコシステムズにて事業開発部長など歴任。日本GE(現GEジャパン)に転じた後、執行役員、営業統括本部長、専務執行役員、事業開発本部長など歴任。2013年、アマゾンジャパン入社。エンターテイメントメディア事業本部長、アマゾンアドバタイジング・カントリーマネージャーなど歴任し、2019年退社。現在は、TRAIL INC.でマネージングディレクターを務めるほか、Day One Innovation代表としてイノベーション創出伴走コンサルタントとしても活動。
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