「イノベーションのジレンマ」は、顧客軽視から始まる

 私が入社した2013年には、アマゾンはもう大企業でした。しかし、その時点でアマゾンにはすでに、いわゆる大企業病を回避する仕組みがありました。私が想像するに、ベゾスは、アマゾンが大企業病のリスクに直面することを予期し、回避する仕組みを事前に作っていたのでしょう。大企業が破壊的イノベーションによって滅びていく法則について書かれたクリステンセンの名著 『イノベーションのジレンマ』も読み、大企業のなかでイノベーションを生み続ける方法を研究していたのではないかと想像します。

 この会社は、なぜこんな仕組みを事前に作れたのだろう――そんな不思議な感覚を抱いた記憶があります。

 その答えはおそらく、ベゾスのモットーである「顧客中心(Customer-centric)」が本物だったということではないでしょうか。ベゾスは、顧客を起点に事業を考えることの重要性を「カスタマー・オブセッション」という、独特の言葉遣いで表現します。「オブセッション=強迫観念」に駆られるくらいに、顧客について考えようという意味です。

 大企業病とは、要するに「自社の都合を優先する」ことから生まれる病なのだと思います。極論すれば「既存事業を守る」ことや「雇用を守る」ことも「自社の都合」であり、「カスタマー・オブセッション」を大原則として掲げるなら、経営の最優先事項にはなり得ません。本当に既存事業を守り、雇用を守りたいのであれば、顧客視点に立ったイノベーションを起こし続けることにしか、長期的な解はありません。

 日本企業、特に日本の大企業には「変化を先送りしたがる」きらいがあるとよくいわれます。しかし、このような問題を抱えるのは、日本企業だけではありません。だからこそベゾスは、大企業病を回避する仕組みを作ったのであり、その仕組みは、あらゆる企業にとって参考になるものです。

大企業にありがちな「6つの落とし穴」

 大企業で新規事業が立ち上がりにくくなる主な理由としては、下記の6つの問題があると思います。それぞれの問題についてアマゾンが、どのような仕組みやプラクティス(習慣行動)で対処しているかも、簡単に記しました。新規事業のリーダーが既存事業と兼務で、社内調整に追われる。既存事業が優先され、新規事業にリソースが回されない。新規事業の失敗が担当者の「失点」になる……。このような問題に直面した経験のある方は、少なくないと思います。そのような皆さまにとって、アマゾンの仕組みは示唆深く、学ぶ価値が高いと私は確信しています。次回以降、これらのうちのいくつかについて解説したいと思います。

アマゾンの事業成長のメカニズムを初めて体系化した1冊。

「GAFA4社で
日本企業と最も相性のいい
仕組みを持つのがアマゾン。
その全容を体系化した意義ある1冊」
―― 早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄氏 推薦

アマゾンには、画期的な新規事業を
組織的に連続して起こす
「イノベーション量産の仕組み」があります。

◆ アマゾンのイノベーション量産の方程式

【ベンチャー起業家の環境】
 ×【大企業のスケール】
  -【大企業の落とし穴】
   =【最高のイノベーション創出環境】

【ベンチャー起業家の環境】とは、
「普通の社員」を「起業家集団」に変える仕組みです。
そこに【大企業のスケール】を与えることで、
起業家よりも恵まれた環境に社員を置き、そこから、
【大企業の落とし穴】をマイナスすることで、
【最高のイノベーション創出環境】が完成します。

本書では、この方程式を実現するための
「アマゾン・イノベーション・メカニズム」を
24個の「仕組み・プラクティス」に分解して解説します。

この記事はシリーズ「新規事業はアマゾンに学べ」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。